「返事は?」
 笑いながらそう言われて、私はハリッチと一緒に、先輩の手をぎゅっと握った。今までで一番力を込めて握りながら、必死で声を絞り出す。
「わ……私も……」
「うん」
「私も、す……好きに……なってました」
 先輩のこと、と続けようとすると、さっき指で触れられた頬の部分を、先輩の唇が掠めた。そしてすぐに離れると、間近で私を見ながら、また「うん」と頷く。
「……のじょに……」
 私は、唇を震わせながら声を出した。バス停の明かりが涙でキラキラ見えるなか、目の前の先輩が微笑みながら私の言葉を待っている。
「本当の彼女に……してくれますか?」
「うん」
「よ……よろしくお願い……します」
「ハハ」
 先輩の笑った吐息が前髪を掠め、私が握っていたはずの大きな手が、今度は私の手を覆い返した。わずかに体温の違う手と手が、今ではもう同じ温かさになっている。
「やっぱり堅苦しい」
 先輩はそう言って、私に優しくキスをした。短いその一瞬に涙が止まり、びっくりした顔の私を見た先輩は、もう一度ゆっくりと唇を重ねる。
 自分を出すことが苦手で臆病になっている私は、きっとこれからも消えはしないのだろう。でも、先輩は、克服はなくすことじゃないって教えてくれた。まずは、自分で自分のことをちゃんと知って認めてあげることだって、教えてくれたんだ。
 だから、自分の心と手をつないで、ちょっとずつ練習をしていこう。傷つく勇気と信頼する勇気を持って、自分の歩幅で確実な一歩をつないでいこう。
 顔を離して微笑み合いながら、私は心に誓う。
「さて」
 横並びに座り直すと、つないだ手を持ち上げた先輩が、私を覗きこんできた。
「どうやって帰る?」
 そのいたずらっぽい顔に、私は真顔で「あ!」と声をあげたのだった。







おわり