先輩の言わんとすることを理解しようとしては、自分に都合のいい解釈を打ち消す。
「あと、ちゃんと伝えたほうがいい、って澪佳に言われたことも」
 まさか……いや、そんなことありえない。でも、もしかしたら……。
「だから今日、ここに伝えに来た」
 期待に胸がいっぱいになり、涙腺がぐっと刺激される。
 けれど、なんというタイミングなのだろうか。私の乗るバスがいつの間にか目の前まで来ていて、風情もなにもない音を立てて停まった。乗降口のドアが勢いよく開き、いつも乗るはずの私を、大口を開けて待っている。
 運転手さんが、座ったままの私を見て怪訝そうな表情を向けてきた。そして、
「乗らないんですかー?」
 と聞かれる。
 私は、涙目でぶんぶんと首を横に振った。そして、
「乗りません!」
 と答える。その声は、自分でも笑ってしまうくらい震えていて上擦った声だった。
 バスがドアを閉め、大きなエンジン音を響かせて去っていく。風が髪を乱して、何筋も顔にかかった。かっこ悪くて、私はその長い髪を急いで整える。
「ハ、すげータイミングだな」
 私の気持ちと同じことを口にした先輩は、私の顔に斜めにかかった髪をよけてくれた。その距離は、すでに肩が触れるほどの近さ。先輩の指は、私のこめかみに触れたままだ。
「いつの間にか好きになってた、澪佳のこと」
 するりと撫でるように、その指が頬を掠めた。私は片目をぴくりと瞑り、唇をきゅっと結ぶ。頬が、目頭が、どんどん熱くなっていく。
 私は、返事をしようにもたくさんの感情が胸を突き上げ、何度も頷くことしかできなかった。そのうち涙が込み上げてきて、目の中が飽和状態になる。
「なんて顔してんの?」
「ぐ……」
 憎まれ口にも言い返せず、限界を超えた涙がぽろぽろと落ちていく。先輩と同じ気持ちだということがこんなに嬉しいのに、苦しくてちゃんと声を発することができない。