「……ていうか、飾ってあるって……もう持ち歩かなくてよくなったってこと?」
 先輩の目が、顔を覆う指の隙間から私の目をとらえた。ドキリとしてしまった私は、口をすぼめてゆっくりと頷き、
「……はい」
 と答える。
 そう、私はもう、ハリッチがいなくても、大丈夫になっていた。受け止めてくれる人間がいるんだということがわかったし、こちらも信頼する勇気を持とうと思えるようになったからだ。それも、これも、全部九条先輩のおかげだ。
私は、先輩から今貰ったマスコットを指で囲い、嬉しさをかみしめる。
「これ、大事にします。嬉しいです」
「…………」
「ありがとうございます」
 ハリッチへ落としていた視線を上げて先輩へ笑顔を向けた私は、こちらを見ていた先輩と、またしっかり目が合った。近くなっていた距離に心拍が跳ねた私は、不自然に姿勢を正し、歩道へと目を戻す。
「さっきの話の続きだけど」
 鼻の頭をかいた先輩は、ぽつりと話しはじめた。私は頷いて、それを聞く。
「あんたは政本と交際しだしたと思いこんでたから」
「…………」
「せっかく想いが成就したところに、水を差したくないって思ってた」
 先輩はなにを言っているのだろうか。
 おずおずと盗み見ると、今度は先輩のほうが前を向いて話していた。屋根についた外灯の光が、横顔の輪郭をきれいに浮き上がらせている。
「でも、気付けば、ここであんたと話したこととか手をつないだこと、リストバンドをもらったこと、総合体育館でがむしゃらにバスケしてるとことか、俺の代わりに泣いてくれたことを思い出して」
「…………」
「あきらめようとしたんだけど、できなくて」
 自分の心臓の鼓動が、ちょっとずつ大きく速くなってくる。
「で、思い出したんだ。どちらにしろ後悔するなら、思うままに動けばいいって話、そういえば俺がしたんだったなって」