短い会話のラリーが続く。このバス停でふたりきりなのはいつぶりなんだろうか。先輩が現れたことに対する動揺と妙な緊張感が続き、かなりよそよそしくしてしまう。
「試合、見たよ。女子の最後の試合」
「あ……」
 やっぱり見てくれていたんだ。途端に喜びが沸き上がり、いろいろと聞いてほしくなる。
「ラストのスリーポイントシュート……」
「……はい」
「前日注意したのに、膝をバネにし過ぎてるクセが出てた」
「え」
「惜しいとか言われてたけど、あれ、あんたなら絶対決められてたはず」
「あの……」
 てっきり褒めてもらえるかと思っていた私は、拍子抜けして変な顔をしてしまう。
「悔しかっただろ?」
「はい……」
 口を尖らせると、九条先輩は、ふっと微笑んだ。そして、
「頑張ったな」
 と言ってくれた。
 その言葉の温かさで、あのとき感じた私の感情を全部知ってもらえているような気がした。葛藤してきた私を間近で見てくれていたからこそ、私の覚悟も悔しさも喜びも、わかってくれているのだろう。
 また、あの日の胸の熱さがよみがえってくる。そして、それが伝わっている先輩のことが、やっぱりどうしようもなく好きだと再認識する。
「……先輩」
「うん」
「見てくれてたんなら、当日、直接声をかけに来てくれたらよかったのに」
「うん」
 私の愚痴に短く返事をした先輩を見ると、微笑んだまま頭の後ろで手を組み、ベンチの背もたれにのけぞるように座っている。車道を挟んだ向こう側の公園、その外灯を眺めているようだ。それ以上何も言わないから、私も黙りこんでしまう。
 近くの信号の色が数回変わり、車も何台か通り過ぎた。なんともいえない沈黙が、私たちの空気を変に張りつめさせていく。
「……先輩、試験やレポートは終わったんですか?」
 自転車が通り過ぎていったのを皮切りに、私はようやく質問ができた。先輩は姿勢も目線も変えぬまま、
「今日、全部終わった」
 と答える。でも、だからと言って、なぜここにいるかは判明しない。
「なん……」
「政本とは順調?」
 けれど、またもや先輩に質問を取られる。しかも、意味不明な質問だ。
「順調……って、何がですか?」
「試合の日、告られてた」
 驚いた私は、口を開けたままで固まった。まさかあの場面を見られていたとは思わなかったからだ。
「や……あの……それはそうなんですけど」