「わっ! 政本、すごいやる気じゃん。ほら見て、真梨香、九条先輩ともう練習してるよ」
「ホントだー」
 部員たちがぼちぼち集まりだすと、北見さんと根津さんも入ってきた。九条先輩と政本君を見て黄色い声を出した後で、こちらにも気付く。
「おつかれー、荘原マネ」
 北見さんに続き、根津さんも、
「おつかれさま。いつもありがとう、荘原さん」
 と微笑む。サラサラボブヘアの根津さんは、女の私から見ても可愛く、そして素直でいい子だ。北見さんが彼女の恋を応援したいというのが頷ける。
 根津さんは、政本君へ視線を戻し、嬉しそうな表情。私は、ドリンクボトルを並べながら、その横顔を眺めた。
「荘原、サンキュ。ちょっと動いただけなのに、もう喉乾いちゃって」
 ぼーっとしていたから、急にかけられた声に驚いた。気付くと政本君がボトルを取りに来ていて、すぐに喉に流しこむ。
「九条先輩て、やっぱすごいな」
 そして、ニッと笑顔をこちらに向け、また走っていった。今からウォーミングアップの始まりだ。
 視線を感じた私は、根津さんのほうを見た。みんなで集まるために歩きだした彼女は、私と目が合うと、パッとまた前へと視線を戻す。
「…………」
 そうか……こういうときに気になっちゃうんだな。先日北見さんに言われたことを思い出し、私は頭をかいた。
 北見さん、ちゃんと私には他に好きな人がいるって伝えてくれたのかな。根津さん、私が政本君のことが好きだって、まだ勘違いしていたりして……。
「……勘違い……か」
 周りに誰もいなくなり、私はポツリとひとり言のように呟いた。
 勘違いじゃないから、困るんだよな。そう思いながら。

 部活が終わりバス停に向かうと、やはり九条先輩が先にひとり座っていた。高身長の彼が座るベンチは、いつもより小さく見える。
「おつかれさまです」
「どーも」
 やはり最初は隣に座るのに気が引けて、数秒たたずむ。でも、ちらりとこちらを見られたことで無言の圧を感じ、前回同様端っこに腰を下ろした。沈黙がバス停を包むなか、時折通る車のライトが、私たちを照らしては過ぎていく。
 そういえば、今日の先輩の指導は厳しかったな。前回はほぼ見学だけだったけれど、今日から本格的に細やかな注意が入り、アドバイスを求める部員にもとことん付き合っていた。