弧光と美織が愛情を深くし絆を強くしていく一方で、美海は複雑な気持ちを抱いていた。美織の魂を受け継いでいるからなのか、弧光に強く惹かれている自分が居るのを感じていた。弧光が美織にプロポーズするところなんて、目を背けてしまったほど。

「俺と……結婚して欲しい」

魂になった美織が歓喜に震えているのに、美海の気持ちはどん底だった。弧光も柊弧も、美海のことを見向きもしない。此処に居るのに、居ないも同然だった。落胆する美海の様子を、隣にいる柊弧に見られていたことも知らなかった。そのくらい、辛かった。

美織と弧光の思い出を追いかけるのが辛くなってくる。その一方で弧光との蜜月を迎えていた美織の魂が喜びに満たされていることが分かった。

(どうして私の中には、美織さんが居るの……)

このままでは、美織をうらやんで、妬んで、弧光に振り向かれない自分を憐れんでしまう。



そして、夢で見たその時は訪れた。

「お父様、どうしてなのですか? 私は、あの方と……!」

「ならん! お前には嫁いでもらう先がある。今後一切、彼のことは忘れなさい」

美織の父親は厳しい顔をして、美織の弧光と連れ添いたいという願いを断った。泣きながら部屋にこもる美織は、食事も喉を通らず、どんどんやせ細っていく。

「美織……!」

美海の横で美織の様子を見守っていた柊弧が、堪らず美織の前に飛び出る。突然屋敷に現れた弧光の姿に驚く美織に、屋敷を出よう、と柊弧は囁いた。

「弧光さん!?」

「君を迎えに来たんだ。このまま屋敷に居れば、君はあいつとの結婚から逃れられなくなる。今度こそ……、二人で幸せになろう」

柊弧の言葉に涙ながらに縋る美織の心に同調して、美海の心が絶望から歓喜に浮き上がる。その一方で、柊弧を取られたくない、という敵わない気持ちが湧きだしてくる。それでも、真剣な柊弧の気持ちを思うと、手伝わないという選択肢はなかった。美海も美織の前に躍り出る。

「弧光! 美織さん! 今なら裏口が開いてるわ! そこから屋敷を出て!」

美海が屋敷を先導して二人を導く。屋敷を取り囲む白壁に設けられた裏口へと急ぐと、異変に気付いた美織の父親が屋敷の中から出てきた。

「美織! 何をしている! その男は誰だ!」

はっと背後を振り向く美織に、先に裏口を潜れと弧光が促す。

「美織さん! こっち!」

美海がまさに美織を裏口から外へと導きだそうとしたその時、美織の父親が拳銃を構えたのが分かった。そんな行動をしたのは何故だったのか、分からなかった。ただ、自然に弧光と美織の父親の間に割って入っていた。

パン! と、鋭い銃声が聞こえたのは、その一瞬あと。

「う……!」

痛い、痛い、熱い、痛い……!!

美海は、撃たれたところからぼたぼたと血が滴り落ちるのを手で押さえながら、その場に倒れこんだ。

「美海!」

美海の身体を抱き上げてくれたのは、柊弧。美海の顔を覗き込んで、どうして……! と目を見開いている。

「ねえ、柊弧……。やっぱり、過去は変えちゃ、いけないわ……。だから私と……、過去じゃなく……、未来を変えるのは、どう……?」

「俺に、今、選べと言うのか……!?」

困惑した様子の表情で美海を見る柊弧に、彼は美織を選ぶんだな、と思った。

「ふふ……。悩んでくれただけでも、嬉しい……。今度こそ……、幸せに……なって、……」

美海の意識はそこで途切れた。あとは真っ暗な世界が広がるばかりだった――――。