現世に帰る日、華乃子は雪月とともに歩いてきた雪原を振り返った。

「……一度だけでも、この雪が私の言うことを聞いてくれたんだわ……」

ぽつりとそう言うと、雪月が穏やかに、ふふ、と微笑った。

「華乃子さんは、これからどんどん雪を操れるようになりますよ。……そして、何時か自信がついたら、僕と番いになってくださいね」

そう言って、雪月がおもむろに両腕を宙に広げた。

「雪原の大空よ、今ひとたび、我に従え。降りしきる雪を全て玻璃に」

それは聞いたことのある言葉だった。……雪月の先の作品で、主人公が求婚を受けるときに告げられた言葉だ。

雪月の声に雪が反応して、きらきらと輝く玻璃になる。わあ、と空を見上げた華乃子の手のひらに、その輝く玻璃が落ちて積もった。

「約束だった、僕の、ほんの気持ちです。……怖い思いもさせてしまいましたから、せめて雪の輝きだけでも、持って帰りましょう」

「そうですね。……でも、悪いことばかりじゃなかったですよ? 先生のかっこいい姿もみれましたし」

「はは……。あれは一応、責務としてですね……」

そう言って照れ笑いする雪月の笑顔もきらきらと輝いている。舞い散る玻璃に負けないくらいの、美しい顔で。

雪月と会えてよかった。幼いあの頃のことが意味を持つ。今まで耐えてきた分、雪月が持たせてくれた玻璃は、より輝きを増すだろう。それが今後の二人の行く末を照らす輝きとなれば良い。

華乃子は雪月が辿る現世への道を、並んで歩いて行った……。