*
「……まず、華乃子さんがご無事で何よりでした……」
ほっと息をついた雪月は、しかし部屋で頭を下げている雪女たちに冷酷な声を浴びせた。
「此度の一件、沙雪が首謀と見てよいか」
冷ややかな声に、沙雪は間違いありません、と震える声で応えた。
「本来なら私の番に対する非道な仕打ちを見逃したくない所だが……」
雪月は一旦言葉を切り、華乃子のことを見やってくる。華乃子の気持ちはどうなのか、と問うているのだ。
「……ちょっと怖い思いもしましたけど、沙雪さんのお気持ちも分かりますし、……なにより、自分に雪女の血が流れていることを自覚できたので、私はこれ以上は何も……」
華乃子がそう言うと、雪月はにこりとやわらかい笑みを浮かべて、それから雪女たちにこう言った。
「よって、今回のことは不問に処することとする。各自、華乃子殿を受け入れる体制を作れ。……それから華乃子さん、雪樹のことだけど」
沙雪たちに連れ去られた後、太助たちと三人でようように屋敷にたどり着いた華乃子の足にしがみついて離れなかった。今は泣き疲れて寝ているそうだ。
「雪樹も、華乃子さんのことを気に入ってるみたいです。……僕としては恋敵が増えるのは勘弁願いたいところなんですけど、……華乃子さんはどう思っているんでしょうか、雪樹のこと」
意外に真剣な声で問われてしまって頬に熱が集まる。勿論、雪樹にかわいい、以上の何の感情も持たないけど、あんな小さな男の子にさえ余裕のない雪月が、ちょっとかわいい。その気持ちを込めて微笑むと、雪月も分かってくれたように微笑った。
「男の雪女が好く相手は、基本的に郷では大切にされます。雪樹も華乃子さんのことを好きのようだし、郷に居てくれても問題ないですけど……、華乃子さんは現世に帰りたいですよね?」
「そうですね……。あそこは私が育った場所なので……」
それに、さっき雪樹と一緒に見た現世の中で雪月の本が書店に並んでいるところ、ああいう風景を、また見たい。
「私は、先生さえまたご執筆に戻ってくださるなら、それを支えたいです」
「そうですね……。新しい世界も、見れましたしね」
にこりと微笑んで、雪月が言う。幽世だろうと現世だろうと、雪月の隣に在れるなら、何処だっていい。願わくばその場所で、雪月の空想が広がっていくのを、一緒に見届けたいと思う。先の作品の中で華乃子を幸せにしてくれた雪月のことを、今度は華乃子が幸せにする番だと思った。
「……まず、華乃子さんがご無事で何よりでした……」
ほっと息をついた雪月は、しかし部屋で頭を下げている雪女たちに冷酷な声を浴びせた。
「此度の一件、沙雪が首謀と見てよいか」
冷ややかな声に、沙雪は間違いありません、と震える声で応えた。
「本来なら私の番に対する非道な仕打ちを見逃したくない所だが……」
雪月は一旦言葉を切り、華乃子のことを見やってくる。華乃子の気持ちはどうなのか、と問うているのだ。
「……ちょっと怖い思いもしましたけど、沙雪さんのお気持ちも分かりますし、……なにより、自分に雪女の血が流れていることを自覚できたので、私はこれ以上は何も……」
華乃子がそう言うと、雪月はにこりとやわらかい笑みを浮かべて、それから雪女たちにこう言った。
「よって、今回のことは不問に処することとする。各自、華乃子殿を受け入れる体制を作れ。……それから華乃子さん、雪樹のことだけど」
沙雪たちに連れ去られた後、太助たちと三人でようように屋敷にたどり着いた華乃子の足にしがみついて離れなかった。今は泣き疲れて寝ているそうだ。
「雪樹も、華乃子さんのことを気に入ってるみたいです。……僕としては恋敵が増えるのは勘弁願いたいところなんですけど、……華乃子さんはどう思っているんでしょうか、雪樹のこと」
意外に真剣な声で問われてしまって頬に熱が集まる。勿論、雪樹にかわいい、以上の何の感情も持たないけど、あんな小さな男の子にさえ余裕のない雪月が、ちょっとかわいい。その気持ちを込めて微笑むと、雪月も分かってくれたように微笑った。
「男の雪女が好く相手は、基本的に郷では大切にされます。雪樹も華乃子さんのことを好きのようだし、郷に居てくれても問題ないですけど……、華乃子さんは現世に帰りたいですよね?」
「そうですね……。あそこは私が育った場所なので……」
それに、さっき雪樹と一緒に見た現世の中で雪月の本が書店に並んでいるところ、ああいう風景を、また見たい。
「私は、先生さえまたご執筆に戻ってくださるなら、それを支えたいです」
「そうですね……。新しい世界も、見れましたしね」
にこりと微笑んで、雪月が言う。幽世だろうと現世だろうと、雪月の隣に在れるなら、何処だっていい。願わくばその場所で、雪月の空想が広がっていくのを、一緒に見届けたいと思う。先の作品の中で華乃子を幸せにしてくれた雪月のことを、今度は華乃子が幸せにする番だと思った。