『おーい、華乃子! 全然戻ってこないから、探したぞ!』

『こんな吹雪の中、何無茶してるんだ!』

雪の向こうから跳んでくるのは白飛と彼に乗った太助だった。

「太助! 白飛!」

びゅうう、と雪が吹き付ける中、二人が駆けつけ、白飛に乗った太助が白飛から飛び降りて華乃子の足に擦りついた。少しでも華乃子を温めようとしたのだろうけど、それくらいではこの寒さはまぎれない。

『どうしたんだ、こんなところで一人きりで』

「そ、それが、此処まで連れてきてくれた雪女の子供に置いて行かれちゃって……」

簡単に事情を説明すると、太助も白飛も雪女たちに怒ってくれた。しかし、今はそんなことをしている場合ではない。怒りを前へ進む力に変えなければならない。

「白飛、太助と私を乗せて、屋敷へ帰れる?」

『うむ……。そのつもりで此処まで来たんだが、……ちょっと想像以上に寒くて、身体が固まってしまっている……』

言われて触れば、白飛の薄っぺらい身体がかちかちに凍り始めていた。

「ちょっと……! そんな危険を冒してまで、来てくれなくても良かったのよ!?」

『いやしかし、もともと俺たちは身を投じてでも恩を返す為に華乃子の傍に居るのだし、三人寄れば文殊の知恵と言うだろう。何か策が編み出せないか……』

太助が腕を組んで、ううむ、と悩む。どうしよう。これでは、三人で文殊の知恵どころか、三人で凍ってお陀仏だ。

ああ、せめて此処に一人くらい雪女の味方が居てくれたら……。

そう思って、思いついた。

(……私だって、半分雪女だわ……)

まあ、さっきそう聞かされたばかりなのだけど、千雪の話が本当であれば、華乃子にも雪女の血が流れている。この雪を、操れないことは、無いのでは……?

(え……っ? 操るって、どうやって?)

雪月はどうやって華乃子をこの寒さから守ってくれていたんだろう? 何か呪文を唱えた素振りはなかったから、やっぱり念じたとか、そういうこと? 雪樹は、あの年齢で念じるなんて、出来るのだろうか?

自分に対して疑心暗鬼になってくると、思考も止まる。出来ないんじゃないかと思ってしまう心が、余計に『念じる』ことを難しくさせた気がした。兎に角前向きに何かをしないと凍えてしまう。さっき雪女たちに、『これしきの雪』と言われてしまったし、華乃子はやけくその気持ちになって、腹の底から叫んだ。

「あーっ、もう! そうよ、私は人間だったわ! でも実は半分雪女だったの! だから、雪よ、止みなさいっ!!」

やけくそで叫んだら、不意に雪の勢力が弱まった。……えっ、意外と言葉にすれば雪は言うことを聞くものなの?

『なんだ!? 雪の勢いが弱くなったぞ!?』

『華乃子、一体、何をしたんだ!?』

太助と白飛の言葉を聞きながらぽかんと雪景色を見ていたら、脳裏にやさしい気配をさせた誰かが語り掛けてきた。

「……我、は? え……っ?」

頭にこだまするその言葉を、小さな声で唱える。すると、急に雪が止んだ。

(え……っ? なにこれ? 今のって、信じていいの……?)

いまいち疑念が晴れないが、此処で凍え死ぬよりはやれることはやっておいた方が悔いがなくて良い。華乃子はもう一度腹に力を込めて、厳かに叫んだ。

「我は水の御霊を宿す者なり! 我が行く先に道を拓け!」

言葉が雪原の隅々まで行き渡り、驚くことに華乃子の前には降雪が拓けて屋敷まで道が出来ていた。

「えええっ!」

『おい! 華乃子! 一体どうしたんだ!?』

半信半疑で唱えた言葉に、こんな威力があるなんて信じられない。

「……って、信じられないとか言ってる場合じゃないわ! もう早く帰ってしまわないと、本当に凍える!」

華乃子たちは雪の拓けた道を白飛に乗って大急ぎで屋敷まで帰った。屋敷の玄関で、悔しそうな顔をしている雪女たちの出迎えを受けて……。