「鈴木君!」

 声をかけながら駆け寄ると、彼は私の好きなあの三日月の目を向ける。

「迷わなかった?」
「うん。望月さんが説明してくれた通りに来たから平気。それに――――」

 あたりを窺えば、幼い頃には見かけることのなかった花見客が、どこから集まったのだろうというくらい、私たちと同じ場所を目指していた。その流れについていけば、自然と誰でも目的地へたどり着けるだろう。

 以前洸太が言っていた、土地開発でマンションや戸建てが増えたこの辺りは、とても賑わいを増していた。商店街も少しずつ変わり始め、昔ながらの店が撤退する姿にはさみしさを感じながらも、新しくできたお店に負けないようリニューアルをして元気を取り戻そうとしている姿は応援したくなる。

 桜の木々はそのままに、神社までの道もきれいに舗装され、その先には花見客のためともいえる公園もできていた。新しい公園には、今や人がたくさん集まり賑やかだ。

 これだけ人が増えてしまっては、あの公園で話したように舞う桜吹雪の中に二人っきりでいることは、難しいかもしれない。
 贅沢なあの空間は、もう味わえないかもしれない。

 鈴木君と繋がる手を少しだけ持ち上げ、彼の顔を窺い見る。

 なに?

 言葉にせず問うような眼鏡の奥を見て、私は笑顔で首を振った。

 幸せだった。

 奏太と洸太と三人で来たこの場所。
 奏太と二人だけできたこの場所。
 洸太と奏太を思い佇んだこの場所。

 今では、二人っきりとはいかな賑やかなこの場所で、つながる手の先にいる温かな存在に、堪らないほどの愛おしさを感じていた。

 沢山の笑顔や話し声が行き交うこの場所で、天井を埋め尽くすように桃色を広げる花たちを見上げる。

「近いうちに、お墓参りに行きたいな」

 訊ねる顔に向かって頷きを返すと、風が私たちを撫でるように吹き過ぎた。

 風に流れる髪の毛を抑えていると、桃色の花たちが二人をやさしく包み込んだ――――。