とはいうものの、先生から聞かされる話の内容の予想がまったくできない愛美は、小首を傾げつつ彼女のあとをついて行った。

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「――相川さん、ここで座って待っていてね。先生はちょっと事務室でもらってくるものがあるから」

「はい」

 通されたのは職員室。上村先生は、その一角の応接スペースで待っているように愛美に伝えた。

(……事務室でもらってくるものって何だろ? ますます何のお話があるのか分かんない)

 愛美は言われた通りにソファーに浅く腰かけ、一人首を捻る。
 事務室といえば、管理しているのは生徒の名簿や成績や、学費・寮費などのお金関係。

(おじさまに限って、学費の振り込みが(とどこお)ってるなんてことはなさそうだしなぁ)

 〝あしながおじさん〟は律儀な人だと、愛美もよく知っている。間違いなく、この学校の費用は毎月キッチリ納められているだろう。
 ということは、それ関係の話ではないということだろうか?

「――お待たせ、相川さん。あなたに話っていうのはね、――実は、あなたに奨学(しょうがく)(きん)の申請を勧めたいの」

「えっ、奨学金?」

 思ってもみない話に、愛美は瞬いた。

「ええ、そうよ。あなたは施設出身で、この学校の費用を出して下さってる方も身内の方じゃないんでしょう?」

「え……、はい。そうですけど」

 上村先生(この先生)は何が言いたいんだろう? 保護者が身内じゃないなら、それが何だというんだろう?

「ああ、気を悪くしたならゴメンなさい。言い方を変えるわね。……えっと、あなたは入学してから、常に優秀な成績をキープしてるわ。そしてあなた自身、『いつまでも田中さんの援助に頼っていてはいけない』と思ってる。違うかしら?」

「それは……」

 図星だった。愛美自身、〝あしながおじさん〟からの援助はずっと続くわけではないと思っていた。いつかは自立しなければ、と。
 そして、ちゃんと独り立ちできた時には、彼が出してくれた学費と寮費分くらいは返そうと決めていたのだ。