ちなみに、〝母子シェルター〟というのはDV(家庭内暴力)脅威(きょうい)から母と子を保護するための施設である。

「じゃあ、純也さんも施設に寄付とかなさってるんですか?」

「うん、まあ……。彼ほどじゃないけどね」

「何をおっしゃいますの? 叔父さまだって四年くらい前から、私財をなげうってあちこ多額の寄付をなさってるじゃございませんか」

 謙遜する純也さんに、珠莉がなぜかつっかかった。

「いいんだ、珠莉。ここは対抗意識燃やすところじゃないから。使いきれないほど財産があるなら、世の中のためになることに使う。これは当たり前のことだ」

「「……?」」

 二人だけが何だか次元の違う話をしていて、愛美とさやかは顔を見合わせた。

「――ああ、ゴメン! 話が脱線しちゃったね」

「いえいえ、大丈夫です。あたしたちの方が、話について行けなかっただけですから」

 さやかが手をブンブン振って否定する。お金持ち同士の会話に入っていけないのは、愛美も同じだった。

「でも、純也さんの考え方って立派だと思います。わたしもそういう人たちのおかげで、今日まで生きてこられたようなもんですから」

 まさに今この瞬間も、その恩恵(おんけい)にあずかっているのは愛美自身なのだ。

「そうだね。世の中には、国とか僕が参加してるNPO法人にたいなところの援助がないと生活できない人がまだまだいる。愛美ちゃんみたいにご両親のいない子供たちとか、生活保護を受給してる人たちもそうだね。僕たちは恵まれてることを、当たり前だと思っちゃいけないんだ。世の中に〝当たり前〟のことなんてないんだから」

 純也さんの言っていることの意味が、愛美には一番よく分かるかもしれない。
 この学校に入ってから、他の子たちが「当たり前だ」と思っていること一つ一つに、愛美はいつも感謝している。
 高校で勉強できること、三食きっちり美味しいゴハンが食べられること、お小遣いをもらって欲しいものが買えること――。