「いやぁ、そんなに褒められてたか。ちょっと照れ臭いな」

 そう言いながら、頬をポリポリ掻く純也さん。でも、言葉とはうらはらにとても嬉しそうだ。

(こういうところが素直なんだよね、この人って)

 だから愛美も、彼に惹かれたんだと思う。

「久しぶりに多恵さんに会いたいな。去年の夏は忙しくて、長期休暇も取れなかったから行けなかったけど。今年の夏は何とか農園に行けそうなんだ」

「えっ、ホントですか? 多恵さん、きっと喜んでくれますよ」

「うん。夏のスケジュールがまだハッキリしてないから分からないけど、多分行けると思う」

(今年の夏は、純也さんも一緒……。わたしも行かせてもらえるかな)

 〝あしながおじさん〟が気を回して、そう手配してくれたらいいのになぁと愛美は思った。
 それとも、「男と一緒なんてけしからん!」なんて怒って、許してくれないだろうか?

「――ねえ愛美、純也さんに言うことあったんじゃない? ほら、小説の」

「あ、そっか」

 愛美が純也さんの子供時代をモデルにして小説を書いたことを、彼はまだ知らないはずだ。珠莉から聞いているなら話は別だけれど、それでも本人の口から伝えるに越したことはない。それが誠意というものだ。

 さやかに助け船を出され、愛美は思いきって純也さんに打ち明けた。

「あのね、純也さん。実はわたし、子供の頃の純也さんをモデルにして、短編小説を書いたんです。で、それを学校の文芸部主催のコンテストに出したの」

「僕をモデルに、小説を?」

「はい。……あの、気を悪くされたならすみません」

「いや、別にそんなことはないよ。気にしないで」

 純也さんは、こんなことで怒るような人じゃない。それは愛美にも分かっているけれど、本人に無断でモデルにしたことは事実だ。それは褒められたことじゃないと思う。

「そうですか? よかった。――で、その小説がなんと、大賞を取っちゃったんです」