淡い水色のリボンが刺繍された、新垣さんから受け取ったそれとは別のもの。
 少年は当惑したように私の顔とハンカチを交互にみて、それからおずおずと手を伸ばした。

「……ありがとう」

 小さく呟きながら受け取って、目元を覆いながら涙を拭い始める。

(この子も家を出るって行ってくれたし、雅弥にも祓われずにすんだし……)

 これにて一件落着。
 平和的解決でめでたしめでたし――と、言いたいところだけど。

「……この子はこれから、どうなるの?」

 雅弥がこんなにも黙したまま、文句ひとつ挟まずに見守っているなんて、(ひょう)でも降ってきそうで怖い。
 伺い見るようにして背後に視線を遣ると、雅弥は眉間に不機嫌の谷を作りながら、

「さっき言った通りだ。ヒトへの直接的な被害はなかったとはいえ、コイツは"隠世法度"を破った。隠世において、罪を償わなければならない」

 少年が、「……ごめんなさい。迷惑、かけて」と俯く。
「平気よ」と告げた私を遮るようにして、歩を進めてきた雅弥が少年の眼前に立った。
 何をするのかと思いきや、そのままの姿勢を保ったまま、眼だけで見下ろしてくる。

(ちょっと、圧! 圧が強い! ほらみてこの子怯えちゃってるじゃん!)

 見下ろすの止めて! せめて身を屈めて!
 私がそう、口にする前に、

「……お供をつける。一人で行けるな? 隠世の警備隊を呼んでもいいが、一人で行った方が、多少なりとも減刑の余地がある」

「!」

 雅弥の言葉に、私は目を剥いた。
 ――減刑の余地がある。
 雅弥が。誰もが認める効率重視の、とにかく祓ってしまえば解決だ、の雅弥が。
 お供をつけてくれるうえに、"減刑の余地がある"?

 少年も随分と驚いているようで、元々丸い目が太ったどんぐりみたいにもっとまん丸になっている。
 無言で見つめ合う二人。程なくして、少年が「……うん」と頷きながら目尻を拭った。
 安堵したように細まる黒い双眸。"薄紫"が淡く光り、ペーパーナイフの姿に戻った。

(……なーんだ。雅弥も心の中では、この子を心配してたってこと)

 それなら初めからそう言って、話を聞いてあげればいいのに……。

「まったく、素直じゃないんだから……。知ってたけど」

「……なにがだ」

「ううん。こっちの話」

「…………」

 雅弥はどこか不満顔で"薄紫"を布鞄に戻し、代わりに真っ黒なスマホを取り出した。と、

「……あのっ」

 少年の声に振り返る。