新垣さんは諦めたように深く息を吐き出してから、
「ガチでよろしくな、彩愛さん。んじゃ、さっそく本題なんだけどよ」
表情を引き締めた新垣さんが、トンネルを見遣る。
「この先に、爺さんが一人で住んでた古い家があるらしいんだけどな。その爺さん、二か月前に他界されたみてーで。んで、娘さんはその家を壊して土地を売ることに決めたんだが、面倒なことが起きちまった」
「面倒なこと、ですか?」
「解体前に少しでも片付けようと思って家に行ったら、中に入れなかったらしい」
トンネルを眺めていた新垣さんが、私と雅弥に視線を移す。
「鍵は確実に開けたのに、玄関の扉はピクリとも動かねえ。裏口も駄目。仕方なしに窓を割って入ろうとしたら、内側のカーテンが揺れたんだと」
「え……それってまさか、幽霊とかそーゆー?」
「それを調べてきてほしいっつーことだ、彩愛さん。その娘さんは、人影のようなものが見えた"気がする"とも言ってたみてーでな。そんで最初に相談受けたヤツも、不法侵入者の可能性を疑って……ほら、空き家に勝手に住み着いてるとかも、実際あるからな」
新垣さんは困ったように息をついてから、
「そんで調べに行ったらしいんだが、そいつも入れなかったどころか、追い払うみてーにして庭の石が飛んできたって言うんだ。おまけに風もないのに窓がガタガタ揺れたつって、すっかり怯えてやがる。死んだ爺さんの"呪い"じゃねえかって。つーわけで、俺に話が回って来たってワケだ」
「……新垣さんって、怪異案件担当とかなんですか?」
「あーいや、基本的には普通の刑事やってっぞ? ただここんところ、そーゆー"見てもらいたい"案件は俺に回せ、みたいになってんだよ。その筋のヤツと繋がりあるからって」
鋭利な双眸を細めて、新垣さんがどこか小馬鹿にするように鼻を鳴らす。
「刑事のくせに詐欺師に引っかかってんのかって、最初の頃は笑いモノにしてたくせになあ。今じゃ調子のいいこった」
その眼に映っているのは、たぶん、過去の色々。
今は触れないでおくのが正解だろうなと判断した私は、雅弥に視線を転じた。
「確認なんだけど、雅弥って"呪い"も祓えるの?」
「……呪詛の種類によるな。だが聞いている限り、今回のはそうした類ではないだろう」
祓えるんだって驚きと、とはいえ万能ではないんだなって落胆と。
「……なんだ。言いたい事があるのなら、言えばいいだろう」
「……いえ、大丈夫です」
どちらにせよ、自身の能力をきちんと把握している本人がこうも落ち着き払っているのなら、安心できる。
「ガチでよろしくな、彩愛さん。んじゃ、さっそく本題なんだけどよ」
表情を引き締めた新垣さんが、トンネルを見遣る。
「この先に、爺さんが一人で住んでた古い家があるらしいんだけどな。その爺さん、二か月前に他界されたみてーで。んで、娘さんはその家を壊して土地を売ることに決めたんだが、面倒なことが起きちまった」
「面倒なこと、ですか?」
「解体前に少しでも片付けようと思って家に行ったら、中に入れなかったらしい」
トンネルを眺めていた新垣さんが、私と雅弥に視線を移す。
「鍵は確実に開けたのに、玄関の扉はピクリとも動かねえ。裏口も駄目。仕方なしに窓を割って入ろうとしたら、内側のカーテンが揺れたんだと」
「え……それってまさか、幽霊とかそーゆー?」
「それを調べてきてほしいっつーことだ、彩愛さん。その娘さんは、人影のようなものが見えた"気がする"とも言ってたみてーでな。そんで最初に相談受けたヤツも、不法侵入者の可能性を疑って……ほら、空き家に勝手に住み着いてるとかも、実際あるからな」
新垣さんは困ったように息をついてから、
「そんで調べに行ったらしいんだが、そいつも入れなかったどころか、追い払うみてーにして庭の石が飛んできたって言うんだ。おまけに風もないのに窓がガタガタ揺れたつって、すっかり怯えてやがる。死んだ爺さんの"呪い"じゃねえかって。つーわけで、俺に話が回って来たってワケだ」
「……新垣さんって、怪異案件担当とかなんですか?」
「あーいや、基本的には普通の刑事やってっぞ? ただここんところ、そーゆー"見てもらいたい"案件は俺に回せ、みたいになってんだよ。その筋のヤツと繋がりあるからって」
鋭利な双眸を細めて、新垣さんがどこか小馬鹿にするように鼻を鳴らす。
「刑事のくせに詐欺師に引っかかってんのかって、最初の頃は笑いモノにしてたくせになあ。今じゃ調子のいいこった」
その眼に映っているのは、たぶん、過去の色々。
今は触れないでおくのが正解だろうなと判断した私は、雅弥に視線を転じた。
「確認なんだけど、雅弥って"呪い"も祓えるの?」
「……呪詛の種類によるな。だが聞いている限り、今回のはそうした類ではないだろう」
祓えるんだって驚きと、とはいえ万能ではないんだなって落胆と。
「……なんだ。言いたい事があるのなら、言えばいいだろう」
「……いえ、大丈夫です」
どちらにせよ、自身の能力をきちんと把握している本人がこうも落ち着き払っているのなら、安心できる。