けれどこれまで出会ってきたストーカーは全員、隠れるというよりはむしろ気づいて欲しいと言わんばかりに堂々と付いてくるタイプだったし、そのおかげか私から声をかけて『やめて欲しい』とお願いすれば素直に引き下がってくれていたけど……。

「……今回は手強そうだなあ」

 気配は、確実にある。のに、姿どころか影も物音も一切しない。

「……実は、お化けだったりして」

 うん、むしろ、その方がしっくりくる。

 とはいえ、仮にお化けさんだとしても、私に付きまとう理由がわからない。
 この三日間、特別変わった場所に行ったわけでも、誰かの思念がこもっていそうな何かを買ったり食べたりしたわけでもない。

 怖がらせることが目的なら、それこそ最初から姿を見せればいいだろうし、かといって訴えたいことがあるのだとしても、残念ながら力になってあげることは出来ない。

 だって私は霊感なんて、さっぱり持ち合わせていないのだから。

「これこそ、"お守り"の出番なんじゃないの?」

 不満に唇を尖らせながら、私は右の手元に転がるスマホを持ち上げた。
 ケースに付けた薄紫の紐が揺れて、繋がる金の鈴がゆらりと離れて近づく。

 音は、出ない。
 そういう鈴なのだと、これをくれたお祖母ちゃんが言っていた。高校二年の時だ。

『鳴らない鈴なんて、鈴じゃないでしょ』

 呆れ気味に変なのと告げると、お祖母ちゃんは『いーや』と笑って、

『これはね、お守りの鈴なのよ。だからいつも一緒にいないと駄目だからね。いざって時にきっと、助けてくれるから』

 ね、と包み込まれた右手。
 両親が多忙な共働きだった私は、産まれた時から生活のほとんどをお祖母ちゃんと過ごしていた。思い出の大半は、お祖母ちゃんと過ごした日々。
 一番近くて、大好きな人の"お願い"。断れるはずがない。

『……仕方ないなあ』

 気付けば随分と皺だらけになってしまった手から、私の掌に移った小さな鈴。
 その日から今日に至るまで、私は律儀に"鳴らない鈴"を持ち歩いている。

 最初はどちらかというと義理立てのような気持ちだったけど、お祖母ちゃんが亡くなってからは、この鈴を通して見守ってくれているような……そんな、心の拠り所になっていたり。

「……いつまで続くんだろ、これ」

 眼前に掲げた鈴はお澄まし顔で、やっぱりうんともすんとも言わない。

「変なことにならなきゃいいんだけど」

 相手が人だろうがお化けだろうが、こうも手掛かりが無いようでは、対策の立てようがない。

「考えるだけ無駄、ってね」

 早々に思考を切った私はベッドから起き上がり、湯船にお湯を張るべく浴室に向かった。