「見た目までなんて雅な……。和よね和。大和撫子って感じ」

「そうかそうか、気に入ったようでなによりだ」

「あ、子狐ちゃんも食べれるのかな? いる?」

 肩でくつろいでいた子狐ちゃんに問いかけてみると、ピンと耳が立って尻尾がふさりと揺れた。

(これは、食べれるってことかな……?)

 肩口に揚げまんじゅうを寄せてあげると、あーんと口を開けてあむあむと食べだす。

「かわいい……この子、譲ってくれないかな……」

 あまりの愛らしさに、式神ってどうやって育てたらいいんだろと本気で考えこんでいると、

「式はその主と繋がる存在だ。傍に置くというのは、その主にすべてを知られるということだぞ」

「ってことは、雅弥にぜーんぶ筒抜けってこと……。それは……私はともかく、雅弥が嫌がりそう」

 ならきっとこの子は、『忘れ傘』に戻ったらお別れ。
 残念、と揚げまんじゅうを咀嚼する私を、壱袈はじっと見下ろして、

「……彩愛は随分と、雅弥に心を開いているのだな」

「うーん? そうねえ。言葉は足らないし口も悪いけど、なんだかんだ優しくて面倒見もいいし。何より丁度いい感じに私に興味ないから、一緒にいるのが、すっごく楽」

「怖いとは思わぬか?」

「雅弥が? 特にそう思ったことはないけど……。あ、嘘。怒ったときはちょっと怖いかも」

「……そちらの"怖い"になるのだな」

 壱袈は何かを思案するように、ゆったりと歩を進め、

「さて、そろそろ宝蔵門(ほうぞうもん)だ」

 言葉に前方を見遣ると、額に『浅草寺』と書かれた二重の門が。
 中央には『小舟町』と書かれた、これまた大きな朱色の提灯が釣り下がり、その両脇には金字の派手な黒提灯がどんと構えている。

「抜ければ、いよいよ本堂だな」

 私は頷いて、ぱくぱくっと揚げまんじゅうをお腹の中へ。
 紙は小さく折り畳んで、ポケットに収める。
 行くか、と促す壱袈に再び右手を預け、人波に紛れて門へと踏み入れた。
 抜けるまで数メートルはある、その中頃に差し掛かった辺り。ふと、壱袈が口を開く。

「先ほど、雅弥と共にあるのは怖くないと言っていたが」

「うん?」

 頭上を通り過ぎる赤提灯。間近に迫る、朱塗りの柱。
 歩を止めないまま、ほの暗い影を落とした瞳がにいと細まる。

「なら、これはどうだ?」

「え?」

 門から抜ける。途端、

「!?」