落ち込んで目線を地面へと落としていると、

「大切にしてたものって誰にもらったの?」

そう尋ねられれば、答えるのを躊躇ってしまい、薄く口を開けたまま固まる私を見て不思議に思った先輩は、七海、と私の名前を呼ぶ。

ハッとした私は、しばらく考えたあと顔をあげて

「亡くなったお母さんにもらったんです」

言葉を取り繕うと、私の言葉に驚いた先輩は、え、と困惑した声をもらした。
私の方へ向いていた視線が一瞬グラついて、ふいに、バンッと、ペットボトルが音を立てて地面に落ちる。

「ご、ごめん」

謝ると、慌ててそれを拾ってぎこちなくベンチへと座る。


「七海のお母さんって……」

亡くなった、そう言葉を言えずに濁した先輩に。私は頷いて。

「お母さん、病気で亡くなったんです。七年前に」

少しだけ震える唇で言葉を言った。


「病気で……」

驚いて声をもらす先輩は、気まずそうに顔を逸らした。

何かあったの、と尋ねてくれたのは先輩の方なのに私よりもつらそうな顔を浮かべていて、このまま話していいのかと不安になり、私も先輩から目を逸らした。


「私の誕生日前には退院できるんだと思ってたんです。でも結局半年くらい入院してたんですけど」

目の前にあるジャングルジムをぼーっと眺めながら、

「ほんとは身体がつらいはずなのに、私の誕生日を祝えない代わりにってビーズで手作りしてくれたんです」
「手作り?」
「お母さん、ビーズでブレスレット作ったりするのが好きだったから……」


懐かしい記憶を思い出すと、わずかに口元が緩んだ気がした。

けれど──。


「私がずっと大切にしてたものを、妹が欲しがったんです」


記憶が全て怒りの感情に塗り替えられるように、一瞬で、スイッチが切り替わる。