「もしかして七海が何か言ったのか?」


この状況を見て何となく把握したのか、私に尋ねる。


「……どうして私?」
「いや、それは…」

言葉を濁すお父さん。

私の部屋の前で美織ちゃんが泣いていて、早苗さんが落ち込んでいて、そして私が怒っている。──その状況を見れば誰が見たって検討くらいつくだろう。

そんなことさえも私の感情を煽る材料になり、イライラが募っていく。


「私のせいだと思ってる?」
「いや、だから」

言葉を濁すお父さんにイラついて、

「私より美織ちゃんの方が大事だもんね」

返事をする隙すら与えないほどに言葉を被せると、私の言葉にムッとしたお父さん。

「何を言ってるんだ。今そんなことは関係ないだろ」

怒った声色に変わる。


「じゃあなんでそんなふうに私を責めたような目で見てるの」
「だから、責めてはないだろ」
「でも目がそう言ってるじゃん」


何があったかなんて、それまでの過程は一切関係ないとでも言っていて、まるで全部私が悪い。そう言っている瞳。


「だから……」

ハア、とため息をつきながら頭をかくと、

「今はそういうことを言ってるわけじゃなくて、何があったのか聞いてるだけだろ」
「……説明してもどうせ私だけが悪いって責められるんでしょ」
「そんなことは言ってないじゃないか」

食い気味にそう言ったあとお父さんは、

「どうしたんだ? ちょっと今日様子おかしいぞ」

まくし立てるように言葉を並べると、眉尻が下がった表情を浮かべて私を見る。


“今日様子おかしい?”

今まで私がどれだけ我慢していたのか、気づいてないんだ。

──ああもういいや。全部捨ててしまおう。
そしたら苦しみも悲しみも全部どこかへ消えるはず。

今まで築き上げてきたもの全部が音を立てて崩れ去る。


「……もういい」

俯いて、唇を噛みしめる。

「七海?」

声をかけられるけれど、それに構う暇なんてなくて、ぎゅっと拳を握りしめる。

「もうみんないらない」


もう、全部全部いらない。
こんな偽物の世界なんて私はいらない。