「それ、お母さんにもらった最後のプレゼントだった。私がほんとに大切にしてたブレスレットなのに……」
私の言葉を聞いたあと、え、と困惑した声をもらした早苗さんは、
「…じゃあどうして…」
「そんなの美織ちゃんのために決まってるでしょ!」
声を荒げると、美織ちゃんは驚いて口をへの字に歪めた。
泣きたいのは私の方だよ、そう思うとさらに感情はヒートアップする。
「美織ちゃんがほしいって言って駄々こねてた! 早苗さんは料理の最中だった! だからあのときはああする他なかったでしょ!」
まくし立てるように言葉を並べると、うわ〜んっと美織ちゃんの泣き声がする。
「……美織のため?」
「そうだよ! 私だってほんとは嫌だった。でも、あの場を収めるためにはブレスレットを手放すほかなかった!」
私が声を荒げると、早苗さんは、事の全てを理解して、
「……ごめんなさい」
弱々しく呟くと目を伏せた。
べつに謝ってほしかったわけじゃない。
罪悪感を感じてほしかったわけでもない。
強く責めたかったわけでもない。
壊れたブレスレットを見た瞬間、私の中の感情のブレーキが壊れてしまった。
自分を抑制することができずに、今まで内に秘めていたものがどんどん溢れだす。
「──何をしてるんだ」
ふいに、お父さんの声がして視線を向ければ、リビングのドアが開いていて、そこからやって来た。
「どうして美織は泣いているんだ?」
困惑しながらかがむと、美織ちゃんの涙を袖で拭っていくお父さん。
「ちょっと驚いちゃったみたいで…」
眉を下げたまま早苗さんが言葉を取り繕うと。
「驚くってどういうことだ?」
「それは、その……」
「何かあったのか?」
お父さんに尋ねられたそれには答えずに、私の方を一瞬チラッと見た早苗さんは、すぐに目線を下げる。
私を気遣ってでもいるのだろうか? それともブレスレットを壊してしまった贖罪だとでも思っているのだろうか?