向けられている瞳から少しだけ目を逸らし、


「私、ずっといい子を演じてたのでどんなに苦しくても笑ってました。友人と一緒にいるときも。でもそれが苦しくてたまりませんでした」

言うと、「あー…」と納得した先輩。

「だから一人になって少しだけホッとした部分もあるというか…」

そう言うと、

「この前は泣いてたのに?」

数日前の出来事を掘り返されて、少し恥ずかしくなった私。


「……あれは、寂しくて泣いてたわけじゃありません」
「じゃあなんで?」
「え、それは、その……」


“あお先輩の言葉が心に沁みたから”なんて言えるわけないもん……。


「よく分からない感情が溢れちゃって」

笑いながら言い返すと、ふうん、と相槌を打つと、

「俺の前でいい子演じなくていいのに」
「えっ?」
「いや、なんでも」

何事もなかったかのようにパンに目線を落とした先輩。

わずかに、“演じなくても”って聞こえたけど……。


「それで?」

先輩の声に現実へと引き戻される。


「私には情ってものがないんじゃないかなぁと思いまして」
「情?」
「だって、一年以上一緒に行動してたんですよ? それなのに寂しいとか仲直りしたいとか感情が湧いてこないっておかしくないですか」

早口で受け答えすると、

「べつにそれは七海に限ったことじゃないんじゃない」

淡々とした口調で返されて、え、と困惑した声をもらす私。


「だって世の中探せばもっとひどい人なんてたくさんいるでしょ。七海よりひどい人が何十人も何千人も、何万も」
「そう、なんですかね…」
「だから無理に仲直りすることはないし、情がないからって落ち込むこともないんじゃない?」


先輩の口から次から次へと溢れる言葉に頭が追いつかなくて、

「え、でも」

言葉に詰まっていると。