よく分からないのに私の力になってあげたい、だなんてほんと不思議な人だ、と先輩を見つめていると

「でも、いつか七海が話せるようになったとき、俺に話してくれるといいなって思う」

そう言って、口元をわずかに緩ませた。


「……ほんとにいいんですか?」
「そう言ってるでしょ」
「でも、そしたらずっと話さないかもしれませんよ?」


どんなに時間が過ぎてもそれが癒えることはないのだから。
例え、十年経ったとしても──。


「待つよ」


ふいに聞こえた言葉が、私の耳に真っ直ぐに入り込む。

私は薄く唇を開けて驚いてみせると、あお先輩は、

「いつまでも待つから」

とまた私に言葉をかける。

私が話さないかもしれないと言った言葉に対して、先輩は“待つ”と答えた。
それがどれだけの本気なのか検討もつかなかったけれど。


「七海が話してくれるそのときまで俺、ずっと待っててあげるから」


その言葉を聞いた瞬間、胸の中がぎゅーっと締めつけられる。

──ああ私、泣いてしまいそうだと、そのとき思ったんだ。泣きそうな顔は見られたくない。

俯いてひざを抱える私。


「どうかした?」


尋ねられるけれど、声を出してしまえば泣きそうなのがバレるから、首を横に振るだけ。

そんな私を知ってか知らずか、ふうん、と返事をしたあと、ポンっと頭を撫でた。
その手の温もりが私の感情を煽り、涙がじわっと溢(こぼ)れた。
スカートに落ちた涙は、そこにしみをつくってゆく。

あお先輩には気づかれたくない。
泣いていると知られたくない。
だから声を殺して涙を流す。