「これ、七海ちゃんのじゃないの?」
美織ちゃんから私の方へ視線を向けた早苗さん。
私はそれに小さく頷いた。
私たちのやりとりをまだ理解できていない美織ちゃんは、ねーママぁ! とブレスレットをつけるようにおねだりする。
美織ちゃんの前にしゃがんだ早苗さん。
「これね、お姉ちゃんのなんだって。だから美織につけてあげることはできないの」
「えーっ、でもみおりがみつけたの!」
「そうだけど、これは七海ちゃんのものだからお姉ちゃんに返してあげよう?」
早苗さんが美織ちゃんを優しくなだめるが、まだ三歳児だ。
キラキラしたものや綺麗なものが好きな美織ちゃんは、やだやだぁー! とブレスレットをぎゅっと握った。
「美織それは七海ちゃんのものなの」
「みおりがみつけたの!」
「うん。だから七海ちゃんに見つけたよって返してあげようよ。ね?」
「やだぁ! これみおりがつけるの!」
頑なに返そうとはしなかった。
私は二人のやりとりを立ったまま見つめた。
まだ美織ちゃんは三歳児。
大人の言い分を理解できるほど脳はまだ成長していない。
ブレスレットが私のものだとしても、気に入ってしまえばやだやだと駄々をこねる。
私にもこんな時期があったのだろうか。
「美織、そんなこと言わないで七海ちゃんに返しなさい」
「やだ! これみおりのなの!」
自分のものを自分のだと言えない環境。
早く返してと強く言えない相手。
そもそもいい子の私は、ここで我慢しなくてはいけないんだ。
私が自分の感情を押し殺せば全部が丸く収まるんだ。
「……いいよ。それあげる」
膝に手をついてかがむと、美織ちゃんと同じ目線になる。
でも七海ちゃん、と早苗さんに止められた。
けれど、こうするほかなかったから。
私はいい子。私はお姉ちゃん。
だから自分の感情なんて二の次だ。