「……私のために?」
「それ意外にないでしょ」


フッと、口元を緩めたあお先輩。
クールな先輩が一瞬だけ崩れた。

あお先輩の笑った顔に意識を奪われている瞬間に先輩はスマホを取り出していたのか、七海が嫌じゃないなら交換しよう、と言った。

強制されているわけではなかった。
断ろうとすれば断ることだって容易にできた。
けれど、私はスマホを掴んだ。
先輩の顔を見ることができなくて俯いてスマホだけに目線を落とすと、少し上の方でわずかに笑われた気がした。


「じゃあ、交換するね」
言いながら私の手元のそばで操作をするあお先輩。
すると、すぐにピコンッと音がなる。
私は電話帳を確認するとそこには【蒼山光流】とメモリーが追加されていた。
メールアドレスも電話番号もある。

SNSの仮想空間ではない、この世界での繋がりを持った瞬間、私の心は不思議と温かくなる。


「なにかあったらすぐ連絡ちょうだい」
「なにかあったら……?」
「うん。もちろん何もないときでもふつーに連絡していいよ」


何もないときでも? 何もないときは連絡しない気がするけど……
でも、嬉しくて、

「……ありがとう、ございます」
顔をあげて小さな声で呟くと、


「いーよ」
と、言ったあお先輩は、とても優しい顔を浮かべていた。

済んだ瞳が綺麗で、
また、その瞳から目が逸らさなくなる。
まるで吸い込まれそうなほどに、真っ直ぐに私を見つめ返してくれた。

通り沿いの窓の向こう側から、夕暮れのオレンジ色の光が差し込んで、窓に反射するとぱあっとまばゆく光り出す。
そんな光にも負けないほどにあお先輩は、輝いて見えた。