「えーっと、じゃあ改めて自己紹介しよう」
私と同じように緊張しているあお先輩。
同じ時間と同じ感情を共有していてて、少しだけ心強くなる。
「俺、三年の蒼山光流(あおやまみつる)」
「あ、えと私、二年の花枝七海です」
私が自己紹介をすると、よろしく、と言われる。
「こちらこそよろしくお願いします」
と、深々と頭を下げると、勢い余ってガンっとテーブルに頭をぶつけた。
痛っ、と呟いておでこをさする。
「大丈夫?」
「え、あっ、大丈夫です…!」
恥ずかしくなった私は、アイスティーを飲もうと手を伸ばすが
「ほんと? ちょっとおでこ見せて」
そう言うと、私の前髪をかき分けてぶつけたおでこを確認する、あお先輩。
ほんの一瞬のことで何が起こったのか理解できずにいたが、視界の中に入り込んだあお先輩を見て時間が止まった、気がした。
あお先輩こと蒼山光流先輩。
柔らかそうな黒髪に切れ長の瞳は吸い込まれそうなほど透き通っていて、一度目が合えば逸らすことも叶わなかった。
視界に映るあお先輩、私の意識を奪うのには十分な衝撃だった。
「七海?」
「え? …あ、ごめんなさい…!」
あお先輩の声でパチンっと催眠が解かれると、慌てて顔を俯かせる。
「大丈夫?」
「ほんとに、大丈夫です!」
すると、それならよかった、と安堵するあお先輩は、アイスコーヒーを飲んだ。
それとは裏腹に、いまだ鳴り止まないどきどきが私の中を駆け巡る。
誰かの瞳に全てを支配されるなんてことが過去に一度だってあっただろうか。
ていうか初対面で醜態晒すなんて私ほんと、何やってるんだろう。
店内はほどよく涼しいのに、私のそばだけが灼熱の太陽に照らされているかのように身体中が熱い。
「名前、七海って言うんだね」
声に反応した私は、頬を押さえながらあお先輩の方へ顔を向ける。