「あの、隣いいですか」
ふいに声がしてアイスティーから視線を声のする方へ移すと、目に飛び込んできたのは私と同じ高校の制服だった。
えっ、ちょっと待って! まだ心の準備してなかったんですけど……!
てか、宮原先生じゃない!!
「あのー」
「あっ、は、はい! 隣、どうぞ…!」
隣の椅子へ両手を広げてどうぞどうぞと言うと、ありがとう、と返事をしながらコトッとテーブルにアイスコーヒーを置いて座った。
あまりにも突然のことで全然心の準備なんてできていなかった私は、顔を見ることができず窓の外に目を向けた。
「遅れてごめん。ちょっと先生に呼び出しくらってなかなか抜け出せなくて」
「あ、いえ大丈夫です…!」
先生に呼び出しって何したんだろう。
喧嘩とか? 居眠りしてたとか?
ていうか緊張でそれどころじゃない!
口から心臓が飛び出しそうだ。
昨日までSNSでのやりとりしかしていなかった相手と、現実世界で会うことになるなんて思ってた以上にどきどきが全力疾走する。
息もさっきはふつうにできていたはずなのに、息を吸う方法さえも知らない生まれたての赤ん坊のようだ。
身体の全てが心臓になったみたいに鼓動の音が大音量で聞こえる。
あお先輩にも聞こえてしまっているんじゃないか。
「緊張してる?」
「はっ、はい…」
そのせいで隣に顔を向けられないで、膝の上に置いている手にぎゅっと力を入れる。
「実は俺もなんだよね」
「……えっ?」
わずかに隣へ視線を向けると、コーヒーを掴んだあお先輩。一口飲んだあと、それをまたテーブルへと戻し
「すごい緊張してる」
続けてそんなことを呟いた。
「……あお先輩も緊張するんですか?」
「するよ。ふつーにする」
視界に映り込んだあお先輩の首筋が、ほんのりと色づいているような気がした。
──ああそっか、そうなんだ。
緊張してるのは私だけじゃないんだ。
ホッと安堵すると、わずかに口元が緩む。
昨日までSNSでやりとりをしていたのに、同じ場所で同じ時間を共有している今、少しだけ不思議な気持ちだった。