仮面を剥いでいた私は、そんな些細な言葉が胸に刺さって泣きそうだった。
『でも私は、いい子でいなければならないんですよね』
いい子じゃない私が胸の内を曝け出す。
指先一つで相手に言葉が届くってなんて便利な世の中なんだろう。
どこにいてもどんなに遠くにいても、スマホ一つで相手の画面へひとっ飛び。
『どうしていい子を演じるの?』
『いい子じゃない自分は必要とされないから……』
『それはななさんがそう思っているだけなのでは?』
どうなんだろう。私のひとりよがりなのだろうか。
いい子じゃない私を受け入れてくれる人、ほんとにいるのかな。
今までずっと、お母さんが亡くなってから七年、私はいい子を演じてた。
そうすればお母さんが戻ってきてくれると信じてた。
けれど、そんなことありえるはずなかった。
頭では分かっていた、はずなのに。
けれど、いい子じゃない私はきっと嫌われる。だから私は毎日猫を被る。
『分かりません。でもいい子を演じたらみんなが笑顔になるから』
『みんなが笑顔になるためにななさんは自分を犠牲にするの?』
『それでみんなが笑うなら……』
『それはななさんの本音?』
そうメッセージが来て、困惑した。
でも、これが私の本音だと思った。
──そう、思いたかった。
けれど、それは本音ではないと理解していた。
"いい子"じゃない私は、何の存在価値もないからと知っているからだ。
仮面を剥いでしまえば、私はただのモブに成り下がる。花枝七海ではいられなくなる。
でも、だからこそいい子を演じていたらみんなが笑ってくれる。
仮面を被っていい子でいれば、私の心を守ることができたから。