二人から溢れる数えきれないほどの会話は、保存が効かない。
だから当人たちも何を話していたのか忘れてしまう。
いつか私もそんなふうに二人から上書きされて、忘れられてしまうようになるのだろうか。
名前なんだっけ、なんて言われる日が来るのかな。
それはそれで仕方がない。
私の存在が薄いのだから、覚えられなくて当然なのだ。
私はただここへ座って二人のおしゃべりに相槌を打って、たまに返事を返す。
それだけで積極的に加わろうとはしていないから。
私が全てを打ち明けずに猫を被っているのだから、忘れられて当然なのだ。
今、一緒にいてくれているだけで感謝しなくちゃいけない。
それ以上を望んではいけないのだ。
「ねえ、クッキー持ってるんだけど食べない?」
意識を現実へ戻すと、かばんの中からお菓子を取り出していた。
遠足にでも来ているのかななんて思ってしまうほど、かばんの中には数種類お菓子が見えた。
「七海はいる?」
いらないと、思ったけれど空気を悪くしちゃいけない。気を悪くさせちゃいけない。
「ありがとう」
可愛らしい包みに入ったクッキーを受け取った。
みんなで楽しく笑った。
私も笑顔を浮かべて笑った。
今はこうやって楽しくおしゃべりができてる。
いい子の私は、こんなキラキラしてる。
まるで青春を満喫してますのように周りには映っているだろう。
それでいい。それだけでいい。
本来の私なんて必要されない。
いっそのこと自分なんて消えてしまえばいいと思った。