だから私は、今日も猫をかぶる



「おお、七海か。ただいま」
「…うん、おかえり」


噛み締めていた唇を解いて、必死に笑顔を浮かべた。

私は、いい子。
いい子でいなくちゃいけない。


「たまには父さんの晩飯に付き合わないか?」
「ごめん、私まだ宿題があるから…」


私が断ると、そうか、それなら仕方ないな、と残念そうな顔をしてリビングへ入った。
そのあとを美織ちゃんはついていく。


「麦茶持って行こうか?」

早苗さんは、私に気を使った。
その雰囲気が手にとるように分かり

「ううん、大丈夫」

と首を横に振った。


「ほら、早苗さんお父さんのごはん準備しなくちゃいけないじゃん」
「え? …あ、そうね。そうよね」


私ったら忘れてたわ、と笑うと、キッチンへ向かった早苗さん。
それを確認すると、私は自分の部屋へ急いだ。
早く息を吸うために。


バタンッとドアを閉めると、そこに崩れ落ちるように座り込んだ。
思いっきり息を吐いて、新しい空気を吸い込んだ。

リビングの空気は薄い。
薄くて、胸が苦しくなってくる。
のどの奥がぎゅーっとなって、チクチクと針を刺す。
まるでのどの奥に魚の骨でも刺さっているかのように、それはなかなか抜けなくて私をひどく傷つける。

浮かべていた笑顔が一気に剥がれる。
家の中でも"いい子"でいなきゃいけないなんて、すっごく疲れる。
みんなの顔色伺って、空気を悪くしないようにと振る舞って、いつも何かに気にして過ごしてる。
センサーが過剰に反応する。
これは言ってはいけないとか、あれはダメとか。

私はいつになったら仮面を剥ぐことができるの? 過ごしやすくなるの?

私が何気なしに言ったアイスのことを覚えてくれていて素直に嬉しかった。
けれど、その裏には美織ちゃんのことが繋がっている。
そう思うと、"ああ私は、美織ちゃんがいなければ優しくしてもらえないのか"と歪んだ感情が顔を出す。