「ううん、大丈夫だよ」
「ほんとにありがとうね。七海ちゃんが優しい子で私、すごく助かってるわ」
「そっか、よかった!」


きっと早苗さんは、ほんとに私のことを優しい子だと思ってくれている。
それは、私も知っているはずなのに、いい子、優しい子、そう言われると、逆にそういなきゃいけないと言われているようにも感じてしまう。

お父さんが再婚して、四年目。
早苗さんと住むようになって四年目。
だけど私は、まだ早苗さんのことをお母さんだとは思えていなくて、それはやっぱり亡くなってしまったお母さんが私にとってのお母さんだから。
お母さんは世界にたった一人だけだから。

だから"お母さん"ではなく、早苗さんと呼んでいる。

早苗さんは私のことどう思ってるのかな。
ちゃんと娘のように思ってる?
でも、血なんて一切繋がっていない。
だから多少お互い気を使うみたいな部分が垣間見えることがある。
それを私は感じている。きっと早苗さんも察している。


「なみちゃんおいしいね」

ふいに、私の名前を呼ぶ美織ちゃん。
なみちゃん呼びに慣れた私も、フッと笑ったあと。

「うん、おいしいね」

と、返事をするとにっこり笑う美織ちゃん。


もちろん妹は可愛いと思う。
けれど、美織ちゃんが生まれてから三年、お父さんは美織ちゃんへ愛情を注ぐようになった気がする。
そりゃあ三歳は天使のように可愛いから、そうなるのも納得できる。
きっと私のときだってそうだったのかもしれないと思う。

だけど、三人で仲睦まじくしてる姿を見るたびに、"この家に私は必要じゃないんじゃないか"、"私は何のために生きてるのだろうか"そんなふうに思ってしまう。
まるで私だけが赤の他人のような気さえしてしまう。
みんながそんなふうに思っていなくても、そういうふうに見えてしまうときがある。