──コンコンッ

不意に部屋のドアがノックされる。


「七海ちゃん、ごはんできたよ」
「…あ、うん。今行くね」


そう返事をすると、分かったわ、と返事が聞こえたあと、パタパタとスリッパが遠ざかる音がする。
私は、はあ、とため息をついたあと、頬を軽く叩いて自分を奮い立たせた。
ドアを出ると、スイッチ一つ切り替えて、私はまたいい子を演じる。


リビングへ行けば、すでにテーブルにはごはんが並べられていて、椅子に美織(みおり)ちゃんと早苗(さなえ)さんが座っていた。

早苗さんとは、お父さんの再婚相手。
血の繋がりはないけれど、私のお母さんになる人だ。
そして美織ちゃんは、お父さんと早苗さんの間にできた子だ。
だから私とは十四も離れた姉妹になる。


「なみちゃん、なみちゃん」
私が美織ちゃんの前に座れば、いつも笑って私の名前を呼ぶ。
ななみ、なんだけど三歳児はまだ同じ"な"を続けて二回言うのが難しいらしく、いつもなみちゃんと言われる。


「こばん食べましょうか」

早苗さんが笑って言うと、みんなでいただきます、と手を合わせる。
美織ちゃんも見よう見まねで手を合わせて、「いたーきます」と言った。

お父さんは仕事が忙しく、いつも二〇時を回る。
だからあまり家族揃ってごはんを食べるということは、まずなかった。
それは再婚する前から同じだった。


「最近ずっと美織のこと迎えに行ってくれて、ありがとうね」


美織ちゃんがこぼしていないかと目配せをしながら、ふいに私にそんな言葉をかける。

まだ美織ちゃんは三歳で保育園に通っている。
早苗さんは、事務で働いているけれど忙しいときはなかなか抜け出せないらしく、そういうときは私にメッセージが届く。
『美織のお迎えお願いしてもいいかな?』って感じで。