『ちょっと人間関係で躓(つまず)いてて、落ち込んでます……』
あお先輩がどんな人か分からないから、いい子を演じていることだけは伏せておく。
そして投稿ボタンを押す。
ベッドの上に寝転がると同時に、またピコンッと鳴り、スマホを天井へかざした。
『人間関係って難しいですよね。でも、同じ悩みを持つ人がいて、少しだけ心強いです』
あお先輩も、人間関係で悩んでるんだ。
そんなふうには全然思えないけど。
なんて、会ったこともないから実際のことなんて分からなかったから憶測だけで人を判断するのはよくないよね。
『あお先輩も人間関係で悩んでるんですか?』
初めて、名前を打ち込んだ。
たったそれだけのことなのに、なぜか"あお先輩"と打ち込むとき、指先が震えたのはなぜだろう。
まるで指先に小さな心臓でもあるかのように、どきどきと音を刻んでいた。
『悩んでますよ。だから、こうやってたまに一緒に息抜きできると嬉しいな』
あお先輩からの提案に、私は少し胸が弾んだ気がした。
顔も知らない仮想空間なのに、あお先輩から通知が来るたびに嬉しくなるこの気持ち。
これって、恋? ……なんてそんなわけないよね。
だって、まだ連絡取るの二度目だし、会ったことだってなければ直接話しているわけでもない。
四角い画面の中だけで文字のやりとりをするだけだ。
『相談できる相手ができて嬉しいです』
だから私は、当たり障りのない文字を打ち込んだ。
絵文字なんか一切付けずに、文字だけを指先で探していく。
あお先輩が男なのか女なのか分からない。
だから私も、女だとバレないようにしようと思った。