どうして今ので疑われるのか理解に苦しむ私だけれど、とりあえずそれは置いておいてこの状況を何とかしなければまずい。
「ほんとに聞いてたよ!」
口早にそう答えると、唐揚げを口に放り込んで、おいしいと繰り返す。
お弁当に夢中になっていると知れば二人も飽きてその話題から離れると踏んでいた。
それなのになかなか会話は進んでいかずにその場で足踏みを続けている。
「あー、分かった!」
と、ポンッと手を叩くと、二人してキラキラした視線を私に向ける。
何事かと思い、慌ててゴクリと飲み込んだ。
「もしかしてさぁ、満井先生のこと考えてたんじゃないの〜?」
「そうそう! だって七海、英語の授業いつも起きてるもんねえ」
絶対そうでしょ! ね、当たってるでしょ! と、私が入る隙さえないほどに言葉をまくしたててくる。
英語の満井先生は、歳が二十九歳と若くてイケメンな上に声まで素敵だと、クラスメイト、そして他のクラスでさえも人気らしい。
けれど私は、そういうものに疎いため異性を見て何かを思うことはほとんどない。
もちろんそれは、教師も同じだ。
「ちちち違う違う! さっきはちょっと眠たかったの。それでもしかしたら寝ちゃってたのかも!」
これ以上話が飛躍しないように私は誤魔化してみせる。
すると、一斉に二人は笑い声をあげた。
「目開けたまま寝るなんて絶対ありえないでしょー!」
「ほんとだよ〜! でも、七海のそういうところ好き!」
パチンパチンっと手を叩きながら楽しさを表現する二人。
周りから見れば、楽しいおしゃべりに花咲かせていると思われるだろう。
仲が良いと思われるだろう。
べつに楽しくないといっているわけじゃない。
けれど、二人のように私は心の内側をオープンにしているわけではない。
一年の頃から一緒に行動を共にしているのに、私は私ではない。
人は特に何の意味をもたない"好き"を当たり前のように、それはもう息を吸うのと同じくらいの感覚で日常的に使う。
だからその言葉は意外と薄っぺらく聞こえてしまう。