「…大丈夫」
自分でおまじないを唱えるように、呟いた。
小さく痛んでいた胸の痛みに耐えながら、私はかばんをもって昇降口を抜けた。
グラウンドから見える空は、夕暮れのオレンジ色と空の青い部分の境目がなんだか私の心のようだと思って、思わずスマホを取り出して写真を撮った。
よく分からなかったけど、綺麗だと思った。
胸が打たれたのかもしれない。
何かを見て心が動くとは、まさにこのことなのだろうか。
私は、そのままそれをSNSに投稿した。
『私はいつまで仮面を被るつもりなんだろう』
そんなコメントと共に。
誰にも届くことのない投稿。
何度も一緒にしようと誘われたSNSを私が始めていると知られたら、二人はどう思うのだろうか。
「もう、面倒くさいな…」
ポツリと呟いた言葉は、生ぬるい風によって攫われると一瞬で私の前から姿を消す。
いい子でいる自分も、二人にほんとのことを言えない自分も。
全部、何もかもが面倒くさかった。
べつに誰かと繋がりたかったからSNSを始めたわけじゃない。
私の心を吐き出すための場所がほしかっただけだ。
"いい子"ではない、素の私の心のうちを。
ただの自己満足だ。
その場所があるからこそ、私は今日もいい子でいられた。
私の心を保つためにとても必要不可欠な場所なのだ。
だから誰にも知られるわけにはいかない。
すぐにスマホをかばんの中に戻すと、二人が向かったであろう駅前とは逆の方へ、静かに足を進める。
無意識に握りしめたかばんの紐が、くしゃっとよれていることなんか全く気づきもしなかったんだ。