「…ほんとだ」

思わず言葉がもれると、

「な? だから、七海は無理しなくていい。きっとそれを家族は分かってくれていると思うよ」

笑った先輩につられて、私も口が緩んだ。


きっと、一人では乗り越えられなかった。
だからこれは、先輩のおかげもあったんだと思う。


「やっぱ、笑ってる方がいい」

ふいに、先輩がそんなことを言って、私は、え、と困惑していると、

「七海は笑ってる顔の方が似合う」

言った先輩の言葉に、お母さんの声が重なった気がした。

そうだ。なんで今まで忘れちゃってたんだろう。
私のお母さんは、『七海の笑ってる顔は太陽みたいに温かいわ』って言ってくれていた。
だから病室だって笑うことを欠かさなかったのに……

お母さんが好きと言ってくれた笑顔を、私は今まで絶やしてしまったんだ。


「七海どうした?」

固まる私を見て心配になったのか先輩は声をかける。その声に「今…」と言葉をもらしながら先輩の方へ視線を向けると、

「先輩の言葉がお母さんに重なりました」
「七海のお母さんに?」
「はい。私のお母さん、私の笑顔が好きだと言ってくれたんです。それなのに私は、そんな大事なことを忘れていい子を演じてしまってた」


だから、きっとお母さんは悲しんでいるに違いない。


「大切なことを忘れてしまうくらい七海はつらかったし、苦しかった。だからあんまり自分責めるな」
「で、でも」
「自分のこと責めないで、ってきっと七海のお母さんだってそう思ってると思うよ」
「お母さんも…?」
「うん」


強く頷いた先輩に、なんだかほんとにそんな気がしてきた。

「それと」言いかけて、私に何かを尋ねようとしていたはずなのに先輩は、言いにくそうに口を閉じた。
そんなもやもやが気になって、

「どうしたんですか?」

恐る恐る尋ねると、

「七海がいい子を演じてた理由ってなに?」

いきなり現れた言葉に私は、え、と困惑した声をもらした。