放課後、先輩と校門で待ち合わせをして、それから先輩のあとをついて行くと。
たどりついたのは、あの海岸だった。


「いきなり連れてきてごめんね」


風に攫われる髪の毛を押さえながら、「大丈夫です」と答えると、私から目の前の海へと視線を逸らして、


「ここ、妹が好きだったんだよね」

懐かしそうに言葉を落とした。


「…海、好きだったんですか?」
「うん。なんか、海見てると心が落ち着くんだって。波の音とか、鳥の鳴き声とか、全部が心地よく聞こえるって前、言ってた」


あお先輩の横顔は、嬉しそうに笑っていて、妹さんとの思い出を思い返しているようで。


「妹が、亡くなってから全然ここに近寄れなくてさ」
「先輩…」
「やっぱ、思い出が詰まってるから思い出しちゃうんだよね」


亡くなった人との思い出は、何年経っても色褪せることはない。
むしろ、昨日のことのようにふとした瞬間に、思い出したりして、悲しくなるときもある。


「全然、立ち直れなくてさ。前向けなくて、妹がもうこの世界にいないなんて受け入れられなかった」


言葉を短く切ったあと、でも、と続けると、


「七海のおかげで、ここに来れるようになったんだよね」
「え、私?」

きょとんとして声をもらすと、私へと視線を向けた先輩が、

「七海のおかげで妹の死とようやく向き合うことができた。受け入れることができた」
「そんな、私なんてなにも…」


してない。

何も、してあげられなかったのに。


「七海がこの前一緒にお墓に行ってくれた。そのおかげで、今こうして思い出が詰まった海にも安心して来れるようになった」


言われた言葉に自分の過去が重なって、胸が少しだけ苦しくなった。


「だから、七海のおかげ」

言葉を短く切って、息を吸ったあと、

「ほんとにありがとう」

笑って、そんなことを言った先輩。


ありがとう、なんて言われる資格なにもないのに、なんて思いながら、少し照れくさくて下唇を噛んだ。