その声に、え、と困惑した声をもらすと、
「悲しんでいたらそれが周りに連鎖して、みんなが悲しくなる。母さんも父さんも。……でも、そこで誰かが断ち切らないといけないよね」
「え?」
「だって、俺たちはまだ生きていかなきゃいけないから」
細々とした声で言ったあと、拳をぎゅっと握りしめた先輩は。
「どんなに苦しくても悲しくても、妹の悲しみを背負って、妹の分まで、俺たちは生きなきゃいけない」
言って、短く息を吐いたあと、
「だって、それしかしてあげられないから」
力強く先輩が言った。
その言葉のあとに、岩に波が打ちつける音が響いた。
砂浜に打ち上がる波の音も、磯の匂いも、海鳥の鳴き声も。悲しさを煽った。
「なんか、ごめん」
ふいに笑ってみせると、
「もうそろそろ十八時なるし帰ろう」
何事もなかったかのように、言葉を続けた先輩。
きっと私に、心配をかけないようにしてくれてるのかな。
胸がぎゅっと苦しくなる。
「七海の家族、心配してるよ」
私へ向かって手を差し伸べる。
けれど、私はまだ気持ちを切り替えることができなくて、先輩の言葉が頭を巡っていた。だって今、先輩を一人にはしておけないと思ったから。
「あの、先輩、もう少し…」
一緒にいませんか、そんな言葉が口をついて出ようとしたけれど、
「七海、帰ろう」
先輩の言葉が私よりも先に現れて、私は言葉をのどの奥へ押し込んだ。
そして。
「明日も当たり前に話せるとは限らないんだよ」
突然言われた言葉に動揺して、え、と声をもらすと、
「当たり前があると過信してはいけない。だって明日がどうなるかなんて誰にも分からないんだから」
悲しそうに揺れた瞳の奥に、妹さんのことを思っているのだと理解すると、悲しくて思わず唇を噛んだ。
「七海もほんとは分かるだろ? 大切な人が突然いなくなる悲しみ」