「多分……」言った先輩は、顔をあげて前を向くと、
「妹はそれに耐えられなくなったんだと思う。それで自ら命を……」
声を震わせた。
まるで泣いているかのように。
「それで妹が亡くなったあと、妹のスマホを見たら、俺宛ての未送信のメールが残ってたんだ」
「メール?」
うん、と頷いたあと、
「その内容が『お兄ちゃん、ごめんなさい。SNSのこと、お母さんたちには内緒にしてほしい』って、それだけ残ってた」
「え……」
「多分、母さんたちに心配はかけたくなかったんだろうね」
無理に声を明るく振る舞う先輩。
「でも」と声色を落とすと、握りしめた拳を頭上へと掲げると、
「迷惑かけたくないって思ってたんなら、妹に生きててほしかった。自分で命を絶つなんて、苦しい思いしてほしくなかった……」
振り絞る声をもらすと、項垂れるように頭を抱えて背中を丸めた。
その肩が小刻みに揺れているようだった。
俯きながら、
「だけどつらかったんだよな。きっと……」
くぐもった声が聞こえて、一瞬口を閉じると、ハア、と重たい息を吐いた先輩。
妹は、と続けると、
「俺にも相談できずに母さんたちにも言えずに一人でそれを我慢してた。最後まで、ずっと……」
そう言った先輩の声は、あまりにもか細くて、まるで泣いているみたいに聞こえた。
「妹が亡くなって一年経つけど、忘れるなんてことはできなくて、それを思うたびに今でも胸が張り裂けそうになるくらい苦しくなるんだ」
小さな声で呟くと、ふいに、風が吹いた。
生暖かい風は、横からふわりと吹いて、私たちに纏わりついた。
アスファルトの照り返しが少しだけ熱く感じて。
線香の煙が、ゆらゆらと空へ向かって流れてゆく。
私は、ただ静かにそれを見つめていた──。