しばらく坂を上ると、綺麗に整理された敷地が広がっていた。
先輩はそこへ入って少し歩くと、ふいに、立ち止まる。
そして。
「ここ、俺の妹が眠ってる場所なんだよね」
広がる景色を見ていたらなんとなく予想がついた、けれどあまりにも突然のことで私は、え、と驚いた声をもらす。
「突然連れて来てごめん」
先輩は、言ったあと私の方へ視線を向けて、「でも」と声を綴ると、
「妹と会わせたくて」
しゃがんだままの先輩と視線がぶつかった。
私は少しだけ戸惑って、何も言えずにいると墓石へと向き直った先輩は、蝋燭に火を灯して、線香を掴んだ。
しんみりした空気の中、
「俺の妹、ほんとうなら亡くなるはずじゃなかったんだよね」
悲しそうな声がポツリともれた。
「えっ…」
思わずもれた声。
──じゃあ、まさか。
そんな考えが、ふと、頭の中をよぎった瞬間。
「……一年前に、自殺したんだ」
告げられた言葉は、私が家を逃げ出したものよりもはるかに重たくて、私の心の中にズドンと落ちてきた。
あまりの驚きに、言葉を失った。と同時に、どうして、と疑問が湧いた。
「妹は、何気ない日常とか好きなものをSNSにあげてることが好きだったんだ」
「SNS…」
「うん。趣味とかでそれ以外にも、たくさんの人と繋がってた。そしていつも楽しそうに笑ってた」
懐かしいことを思い出しながら声を綴っているけれど、話している先輩の後ろ姿は、あまりにも寂しそうで。
「いつからだったかな」考え込むように、ふいに、空を見上げた。
私も先輩の視線を追うように空を見上げると、優雅に飛んでいる二羽の鳥が大きく羽を広げていた。
「妹は苦しそうな顔をするようになったんだ」
声が聞こえて目線を下げると、
「…苦しそう?」
「うん。笑うことはあっても何かを隠しているような、笑っても無理してることが多くなったんだ」
先輩は、墓石を見つめた。