「……ごめんなさい」

泣き止んだ私を見て、

「いいよ、大丈夫」

先輩は眉尻を下げて悲しそうに笑った。


ブーッ、ブーッ、──ふいにスマホが鳴る。
緊張した面持ちでポケットから取り出すと、画面に表示されたのは【お父さん】。

けれど私は、ボタンを押すことができない。


「出ないの?」

隣で画面を覗き込んだ先輩に小さく頷く。

「……出たくないです」
「心配してるかもよ」
「心配なんて、きっとしてない…」


美織ちゃんが泣いた理由を聞いて、私を叱るに違いない。

その間にも鳴り続けるスマホ。けれど私は、もやもやした感情で、それを見つめることしかできなくて。

プツッと切れた音。それにホッと安堵した。


だって今、どんな声で出ればいいか分からない。
きっと何を言われても反発してしまうに決まってる。
そしたらまともな会話なんてろくにできないだろう。

だから今は、まだ。


「……話したくない」

そっぽを向いて答える私。

「分かった」

私の頭をポンッと撫でたあと「でも」と言って、立ち上がると、

「心配してるだろうから連絡だけはしときな」

言われて、俯いて黙り込むと、

「連絡しないなら今から俺が家まで七海のこと送るけど」

そう提案されて逃げ場を失った私は、どっちがいいかなんてすぐに理解して。


「……分かりました」

答えると、ん、と短く返事をした先輩は、再度私の頭を撫でてその場を少し離れた。

多分、私が連絡しやすいように離れてくれたんだろうなぁ……。


先輩に言われて仕方なく、お父さんにたった一文だけのメッセージを送ることにした。

『友人と一緒にいます。心配しないで』

電話が来そうだと思って、電源をオフにしてしまおうかと考えたけれど、それだと警察に連絡されたら怖いと思ってやめた。
代わりに、返信を待たずにスマホをポケットにつっこんだ。