すると、俺たちの間に流れている重い空気を読まずに、女子が会話に入ってきた。
二人いるが、片方は藤枝さんがクッキーをくれたときにいた。もう一人は数日前、藤枝さんに声をかける直前に告白してきた女子だ。
彼女が、藤枝さんの友人だったのか。
「綾乃……美波?」
藤枝さんは状況を飲み込めていないように見える。しかし俺も彼女のセリフに違和感があった。
「美波が奏羽と柿原が仲良くなってるって言っててね。奏羽が柿原につきまとわれてるなら、助けなきゃと思って来たんだけど」
「ま、待って……どういうこと……?」
藤枝さんが代表して質問する。俺も蒼生も、彼女たちの返答を待つ。
「柿原夏輝と真城蒼生が女子で遊んでいるってのは、女子全員が知ってるってこと」
簡潔な答えだった。だが、それは俺を思考の迷路に誘う。
俺だけではない。蒼生もまた、理解しきれていないらしい。
俺たちは、二人そろってなにも言えなかった。
女子は優しくされたくらいで告白するほど単純な生き物だと思っていた。だが、実際は女子のほうが何枚も上手だったらしい。
「女子のグループで、柿原たちのことが回ってきたんだよ。女子に告白させようと近付いてくるから、さっさと解放されたかったら、嘘でも告白したほうがいいって」
美波と呼ばれていた女子が、そう言いながら藤枝さんにスマホを見せている。
絶対に告白されたのも、期間が短くなっていたのも、そういうことだったのか。自分の力だと思っていたから、恥ずかしくてしかたない。
「奏羽はスマホ持ってないから、柿原たちのこと知らなくて困ってるんじゃないかと思ってたけど……」
綾乃は俺を最大限にバカにして鼻で笑う。
「あんたが騙されてたんだ?」
今すぐ逃げ出したかった。
でも、足は動いてくれない。
「……俺に告白してくるとき、手を震わせてたくせに」
少しでも反撃したかった。だから、あのときの記憶を呼び起こした。
それなのに、綾乃はますます俺を嘲笑う。
「あれは、嘘がバレたらどうしようって不安になってただけ。あんたのことなんて、一ミリも好きじゃないから」
一切関係ない美波が舌を出して、挑発してくる。
「柿原君に告白した次の日休んでたのは、断られてショックだったから、じゃないの……?」
そういえば、俺がもらったクッキー。あれは、綾乃が休んだから、俺の手元にやってきたものだ。
「違う違う。夜遅くまで漫画読んでて、寝坊しただけ」
藤枝さんは拍子抜けした顔をする。
「じゃあ、私だけなにも知らなかったんだね……余計なこと、しちゃった」
藤枝さんは申しわけなさそうに笑う。それを見て、胸を締め付けられる。
「なに言ってんの。奏羽のおかげでめちゃくちゃすっきりしたよ。ありがとう」
綾乃の言葉で、藤枝さんの表情に一気に安堵の色が見える。そんな藤枝さんの頭を、美波が優しくなでる。
俺たちは、その様子を黙って見ておくことしかできない。
「ところで、なんで奏羽は柿原たちのこと知ってたの?」
美波に聞かれ、藤枝さんは目線を落とす。
「綾乃が告白してくるって言ったあと……気になって、こっそり見てた……ので……その……盗み聞きして、ごめんなさい……」
ただでさえ小柄だった藤枝さんが、さらに小さくなる。
そうか。俺たちのあの最低な会話を聞いていて、そのときあれのことを知ったのか。
俺はそれも知らずに、藤枝さんに声をかけた。だから藤枝さんは、あのとき俺を睨んだのだ。
友人の気持ちで遊んでいた相手に声をかけられて、いい気はしないだろう。むしろ、怒って当然だ。
というか、謝るのは藤枝さんではない。
俺たちのほうだ。
「……あの」
そう思って声を出すと、綾乃が鋭い視線で俺を見た。
「もしかして謝ろうとしてる?」
綾乃に言われ、謝罪の言葉は喉につっかえて出てこなくなった。
「人の気持ちをゲームにして、謝って済ませようなんて、随分と愚かな思考回路。まあ、そうじゃないと、あんな最低なことはしないだろうけと」
綾乃は言うと、藤枝さんを連れて行ってしまった。
俺と蒼生だけが残されたが、お互いなにも言えなかった。
二人いるが、片方は藤枝さんがクッキーをくれたときにいた。もう一人は数日前、藤枝さんに声をかける直前に告白してきた女子だ。
彼女が、藤枝さんの友人だったのか。
「綾乃……美波?」
藤枝さんは状況を飲み込めていないように見える。しかし俺も彼女のセリフに違和感があった。
「美波が奏羽と柿原が仲良くなってるって言っててね。奏羽が柿原につきまとわれてるなら、助けなきゃと思って来たんだけど」
「ま、待って……どういうこと……?」
藤枝さんが代表して質問する。俺も蒼生も、彼女たちの返答を待つ。
「柿原夏輝と真城蒼生が女子で遊んでいるってのは、女子全員が知ってるってこと」
簡潔な答えだった。だが、それは俺を思考の迷路に誘う。
俺だけではない。蒼生もまた、理解しきれていないらしい。
俺たちは、二人そろってなにも言えなかった。
女子は優しくされたくらいで告白するほど単純な生き物だと思っていた。だが、実際は女子のほうが何枚も上手だったらしい。
「女子のグループで、柿原たちのことが回ってきたんだよ。女子に告白させようと近付いてくるから、さっさと解放されたかったら、嘘でも告白したほうがいいって」
美波と呼ばれていた女子が、そう言いながら藤枝さんにスマホを見せている。
絶対に告白されたのも、期間が短くなっていたのも、そういうことだったのか。自分の力だと思っていたから、恥ずかしくてしかたない。
「奏羽はスマホ持ってないから、柿原たちのこと知らなくて困ってるんじゃないかと思ってたけど……」
綾乃は俺を最大限にバカにして鼻で笑う。
「あんたが騙されてたんだ?」
今すぐ逃げ出したかった。
でも、足は動いてくれない。
「……俺に告白してくるとき、手を震わせてたくせに」
少しでも反撃したかった。だから、あのときの記憶を呼び起こした。
それなのに、綾乃はますます俺を嘲笑う。
「あれは、嘘がバレたらどうしようって不安になってただけ。あんたのことなんて、一ミリも好きじゃないから」
一切関係ない美波が舌を出して、挑発してくる。
「柿原君に告白した次の日休んでたのは、断られてショックだったから、じゃないの……?」
そういえば、俺がもらったクッキー。あれは、綾乃が休んだから、俺の手元にやってきたものだ。
「違う違う。夜遅くまで漫画読んでて、寝坊しただけ」
藤枝さんは拍子抜けした顔をする。
「じゃあ、私だけなにも知らなかったんだね……余計なこと、しちゃった」
藤枝さんは申しわけなさそうに笑う。それを見て、胸を締め付けられる。
「なに言ってんの。奏羽のおかげでめちゃくちゃすっきりしたよ。ありがとう」
綾乃の言葉で、藤枝さんの表情に一気に安堵の色が見える。そんな藤枝さんの頭を、美波が優しくなでる。
俺たちは、その様子を黙って見ておくことしかできない。
「ところで、なんで奏羽は柿原たちのこと知ってたの?」
美波に聞かれ、藤枝さんは目線を落とす。
「綾乃が告白してくるって言ったあと……気になって、こっそり見てた……ので……その……盗み聞きして、ごめんなさい……」
ただでさえ小柄だった藤枝さんが、さらに小さくなる。
そうか。俺たちのあの最低な会話を聞いていて、そのときあれのことを知ったのか。
俺はそれも知らずに、藤枝さんに声をかけた。だから藤枝さんは、あのとき俺を睨んだのだ。
友人の気持ちで遊んでいた相手に声をかけられて、いい気はしないだろう。むしろ、怒って当然だ。
というか、謝るのは藤枝さんではない。
俺たちのほうだ。
「……あの」
そう思って声を出すと、綾乃が鋭い視線で俺を見た。
「もしかして謝ろうとしてる?」
綾乃に言われ、謝罪の言葉は喉につっかえて出てこなくなった。
「人の気持ちをゲームにして、謝って済ませようなんて、随分と愚かな思考回路。まあ、そうじゃないと、あんな最低なことはしないだろうけと」
綾乃は言うと、藤枝さんを連れて行ってしまった。
俺と蒼生だけが残されたが、お互いなにも言えなかった。