本格的に一人で過ごす時間が増えてきた。しかしその時間は、藤枝さんを探す時間と言っても過言ではない。

 だけど恋を自覚して、藤枝さんに話しかけることすら、緊張してできなくなった。

 藤枝さんのクラスの前を通るとき、教室にいないか探したり。廊下を歩いていて、藤枝さんが向こうから歩いてこないか、変に期待したり。

 そうやってこそこそしていたのに、藤枝さんは俺を見つけると、俺のところに駆け寄ってくる。

 俺の気も知らないで、藤枝さんは無邪気に笑う。

「なんだか久しぶりだね」
「そうだね」

 俺が話すことを避けていたからね。

「知り合ったばっかりなのに、数日会えなかっただけで寂しかったな」

 反応に困る。いや、内心かなり喜んでいるけども。それを素直に言うのは恥ずかしい。

 というか、この言葉でちょっと期待している自分がいる。

 藤枝さんも、俺と同じように思ってくれているような。

 ……なんて、俺の勘違いだろうけど。でも、そうであってくれたら死ぬほど嬉しいわけで。

「……藤枝さんって、好きな人とかいる?」

 話の流れを無視した質問に、藤枝さんの表情が戸惑いを見せる。

「どうして?」

 戸惑っている藤枝さんを見ていたら、答えは気になるけど、聞きたくないという気持ちが勝ってきた。

「夏輝が藤枝さんのことが好きで、藤枝さんに好きな人がいないか気になってるからだよ」

 その質問をなかったことにしようとしたのに、俺の台詞に被せるように、誰かが言った。

 藤枝さんの後ろに、蒼生が立っている。

「柿原君が、私を……?」

 藤枝さんが蒼生を見ているから、今どんな表情をしているのかわからない。

 だが、取り返しがつかなくなってきたことだけはわかる。こんなことになるなら、はやく自分の言葉で言っておけばよかった。

「……蒼生、邪魔するなよ」

 俺はそれしか言えなかった。

「そうだよ。あと少しで、柿原君をふることができたのに」

 耳を疑った。

 だが、俺の言葉に続くように言われたそれは、たしかに藤枝さんの声だ。

「もしかして、わざと夏輝に近付いたの?」

 俺が混乱している間に、蒼生が聞いた。知りたいけど、知りたくない。

「近付いてきたのは、柿原君だよ? 私はなにもしてない」

 そうだ。俺があの日、藤枝さんに目をつけたのは、偶然だ。藤枝さんはただ俺とすれ違っただけ。

 俺がターゲットを決めるのは基本的に気分だし、藤枝さんがなにか仕掛けていたとは思えない。

「でも、あとは演技かな」

 その一言は、俺を絶望の沼に突き落とした。

 だけど、これが俺たちがしてきたことだ。藤枝さんに文句を言うことはできない。

「どうして、そんなこと……」

 ただ、どうしても理由がわからなかった。

 俺が聞くと、藤枝さんは振り向いた。今まで隠されていた敵意が、剥き出しになっている。

「柿原君たちは、綾乃を……私の友達を傷つけた。人が一生懸命勇気を振り絞って告白したのを、ゲームにして。お金を賭けて。人の気持ちで遊んでいたことが許せなかったから」

 藤枝さんがゲームのことを知っていたことにも、ショックを受けた。

「なんだ、柿原が奏羽に近付いてたわけじゃないんだ」