あの遊びをしなくなってからというもの、昼休みが暇で仕方ない。

 蒼生とも話す機会が減って、一人時間が増えてしまった。

「夏輝」

 無意味に数学のノートを眺めていたら、名前を呼ばれた。

 顔を上げると、蒼生が悪い笑顔をして立っている。

「あんなこと言ってたくせに、あの子といい雰囲気になってるみたいじゃん」

 からかうように言ってくる。

 だけど、俺はその気がないから、蒼生との温度差がひどい。

 俺は反応しないで、ノートに視線を戻す。

「遊びで近付いてるわけじゃないから」
「まだそんなこと言ってるの? 夏輝が始めた遊びなのに」

 蒼生は不服そうに言う。


 俺が女子に告白させるという遊びを始めたのは、些細なことがきっかけだった。

 高校生になって、俺は数人に告白をされた。でも恋愛に興味がなかったし、特に気になる子もいなかったから、すべて断った。

 それはなかなかに苦痛で、どうにか楽しいことにできないかと考えた。

 そして思いついたのが、告白してくるように仕向けて、断るゲーム。さらに、それを賭けにする。

 それは想像以上に楽しかった。

 それから、『告白させることができるか』がいつの間にか、『どれだけの期間で告白させることができるか』になった。ターゲットのほぼ全員に告白され、できるできないでは賭けにならなくなったからだった。

 本当に、最高で最低な暇つぶしだった。


 でも、もうやりたくない。

「もしかしてさ、夏輝、あの子のこと本気で好きになってない?」

 蒼生に言われて、俺は顔を上げた。

 なるほど。

 藤枝さんの笑顔に癒されていたのも、うまく会話ができなかったのも、恋愛を遊びでできなくなったのも、俺が藤枝さんを好きになったからか。

 俺は一人で納得した。

 しかし、この気持ちを藤枝さんに伝える勇気はない。もし伝えたとして、断られたら死ぬほどつらいだろう。

 それに、告白して断られるとどうなるか、嫌というほど知っている。

 関わらない。知り合う間に戻ってしまう。

 それだけは、嫌だ。

 人を好きになって、俺はやっと自分がやっていたことがどれだけ最低だったかがわかる。

「ちょっと、聞いてる?」

 蒼生は見るからに不機嫌だ。

「聞いてるよ。俺はもうあのゲームはしない。藤枝さん……彼女といるのは、ゲームとか関係ないから」

 それをわかっておきながら、火に油を注ぐような言い方をしてしまった。

 せっかく戻りかけた関係を、俺はまた切ろうとしている。

 蒼生は面白くなさそうな顔をすると、そのまま俺の席を離れていった。