翌日の放課後、一人で下駄箱に向かっていたら、向こうから藤枝さんが友達と話しながら歩いてきた。

「藤枝さん」

 俺は思わず声をかけた。

 藤枝さんは俺に気付くと、優しく微笑んで俺の前まで足を速める。

「柿原君、ちょうどよかった。柿原君って、甘いもの平気?」

 単刀直入すぎて、俺は戸惑いながら答える。

「平気だけど……」
「よかった。今日クッキーを作ってきたんだけど」

 藤枝さんは手提げバッグの中を探る。丁寧に包装されたクッキーが出てくる。

「一つ余っちゃって。よかったら、どうぞ」

 クッキーが差し出される。

「余ってたなら、言ってよ。私がもらったのに」

 受け取ろうとすると、隣の女子に邪魔をされた。

「美波にはあげたでしょ。これは綾乃の分」

 その子が不満そうにしているのに、藤枝さんは構わず俺にクッキーを渡してきた。

「本当に俺がもらってもいいの?」

 受け取りながら確認する。

 藤枝さんの手作りクッキーなんて、めちゃくちゃほしいけど、二人の会話を聞いておきながら、もらうのは気が引ける。

「美波のことは気にしないで。それに、綾乃……これを渡すはずだった子は、今日休んでて。むしろ、余りものでごめんね」

 藤枝さんは申し訳なさそうに言う。

「全然、嬉しいよ。ありがとう」

 俺がそう言うと、藤枝さんは照れ笑いを見せた。

 女子からプレゼントをもらったことは、今までに何度もある。だが、それとは比べ物にならないくらい、ものすごく嬉しかった。

 藤枝さんと別れても、顔のにやけが収まらない。帰り道、すれ違う人が奇妙なものを見るような目を向けて来たが、俺はまったく気にならなかった。

 家に着くと、まっすぐ自室に向かった。椅子に座って、藤枝さんにもらったクッキーを見つめる。

 渡すはずだった相手が女子だったから、これだけラッピングが可愛いんだろう。本当に余りものだったのだと思い知らされる。

 しかしそれでもいいと言ったのは俺だ。傷つくのは筋違いというやつだ。

 クッキーを一つ取り出し、頬張る。

「うま……」

 それは想像していた以上においしかった。もったいないと思いながらも、藤枝さんの手作りクッキーは夕飯に呼ばれるまでの数十分でなくなってしまった。