そこで変な間が空いてしまい、紫音は挨拶をして家路につこうとした。

「ねぇ、紫音ちゃん。もし時間があったらお茶しない?」

「え?」

 ところが、詩音からの意外な提案に目を見張る。相手の意図が見えない。理由なく誘うほど自分たちは親しくないはずだ。

 そんな紫音の思考を遮るように詩音は強引に続ける。

「ね、せっかくだから少しだけ」

 詩音の勢いに圧され、紫音はぎこちなく頷いた。

 結局ふたりは大学の正門を出てすぐ近くのカフェに足を運んだ。

 一階は学生御用達の全国チェーン店の居酒屋が入っており、その二階に位置するカフェは、どちらかといえば学生よりも教員が訪れる雰囲気の店だ。

 価格帯も学生にしてはわりと高めに設定されているが、その分客層も落ち着いていて味も間違いない。

 実乃梨とならいざ知れず、相手は社会人の詩音だ。学内のカフェテリアも今日は閉まっている。

 詩音は気に入ったようで、紅茶とケーキのセットを注文したので紫音もならう。詩音はガトーショコラ、紫音はミルクレープを選んだ。

「付き合わせてごめんね。ちょっと休憩したくて」

 注文を終えた後、詩音は眉尻を下げて謝ってきた。そこで紫音は悟る。

 詩音はこちらに出張で来ているので、土地勘やどんな店があるのか知らないのだろう。

 しかし、それなら紫音には尋ねるだけでいいはずだ。同行する必要性までは感じない。今の時代、インターネットでいくらでも検索ができる。

「あとね、紫音ちゃんとちょっと話してみたくて」

 紫音の考えを遮り、詩音が笑顔で補足するので紫音は目をぱちくりとさせた。