四限のゼミは、学籍番号順で教授が適当に割り振ったメンバーでグループワークの課題を出し合う内容だった。

 紫音を入れて女子三名、男子二名。人文社会学部全体で見ると男子の割合が多いのだが、歴史学専攻となると圧倒的に女子の方が多くなる。

 リーダーは野球部に所属する坂巻(さかまき)に任せ、紫音は彼の補佐役に回った。指導教官の高原(たかはら)教授は温厚だが成績評価には厳しいと定評があるので、基本的に彼のゼミを志望する学生は勤勉な者が多い。

「そういえば、今日の風間先生の講義面白かったな」

 担当を話し合っている最中、思い出したように坂巻が話題を振った。それに女子ふたりも反応する。

「わかりやすかったよね。なにより先生、顔もいいのに声もいい!」

「そこ? あ、たしか神代さん、親戚なんでしょ?」

「う、うん」

 突然話に巻き込まれ、紫音は驚きつつも答える。彼女たちは仲のいい友人同士だが、紫音とはこうしてゼミが一緒になって初めて話す仲だった。

 わずかに緊張していた紫音だが、凰理の話とはいえ雑談するきっかけができたのは有り難い。

「風間先生の話かい?」

 しかしそこで指導教官の高原が声をかけてきたので、その場にいた全員はぴたりと口を(つぐ)んだ。

 課題とは関係のない話で盛り上がっていた後ろめたさで互いの顔を見合わせる。するとその様子を見た高原はおかしそうに笑った。

「若い教員は珍しいから大体、学生の注目を集めるものだが、彼は格別だ。あの外見に加え、執筆した論文の内容もなかなかで院生のときから同業者の間でも話題になっていたよ」

「先生は風間先生とお知り合いなんですか?」

 坂巻が質問すると、高原は白髪交じりの顎鬚(あごひげ)を触りながら大きく頷いた。