結婚前夜のラブレター


《十月十六日》

十四歳の誕生日を前にして、初めての彼氏ができた。
彼氏は隣のクラスの青木くん。一年のときに同じクラスだったけど、挨拶ぐらいしかしたことない。
でも、ずっとあたしのことが気になってたんだって。
ほかに好きな人もいないし、告白されたのが嬉しくて、すぐにオッケーした。
友達何人かにメールしたら、みんなすごくびっくりして羨ましがってた。
優也にも言いたかったけど、帰ってきたら部屋で寝ててまだ話せてない。優也はまだ彼女いないと思うから、あたしに先を越されたって知ったら絶対悔しがるだろうなー。優也がどんな反応するか楽しみ。




《十月十七日》

優也に彼氏ができたことを話した。
絶対に悔しがるだろうなって思ったのに、優也は何も言わずに怖い顔をしていた。
優也は学校ではクールなタイプだけど、家ではあたしによく笑ってくれる。
今まで睨まれたことなんて一度もない。それなのに、今日はめちゃくちゃ怖かった。
気まずくなって優也から逃げようとしたら、すごい力で腕をつかまれた。
優也の腕はあたしと変わんないくらい細いのに。めちゃくちゃ力が強くて、すごくびっくりした。
青木のこと、ほんとに好きなの?って、優也に怖い顔で聞かれた。
よくわからないけど、ものすごくドキドキした。
青木くんに告白されたときよりもドキドキしたかも。
今も、優也につかまれたとこが熱い。


《十二月十八日》

青木くんと別れた。
付き合うって何をするのかよくわからない。一ヶ月前から学校で全然しゃべらなくなって。メールしててもつまらなくなってきて。
別れる?って何気なく聞いたら、いいよって言われた。別れたけど、全然悲しくない。
友達はクリスマス前なのにもったいないって言ってたけど、どうなんだろう。
優也は、いつもみたいに家でクリスマスケーキ食べたらいいじゃんって笑ってた。
あたしが別れたことを話したときも、ちょっと嬉しそうだった。
あたしの不幸を喜んでるのかな。だとしたら、最悪。
でも、クリスマスは優也と家でケーキを食べることが、一番想像できる気がする。


《七月十五日》

もうすぐ、中学最後の夏休み。
他のクラスの友達から、優也が一週間前に山口さんから告られたらしいって噂を聞いた。
山口さんは、あたしと優也と同じ塾に通っている、頭が良くて可愛い子。そういえば中三になってからよく自習室で優也の隣の席に座ってるなーって思ってたけど、優也を好きだとは知らなかった。
優也にもついに初カノできたのかも。
夜ごはんのときに優也を観察してたけど、今までと変わったところは別にない。ジロジロ見てたら、ウザがられた。
最近、優也はあたしによくウザいって言う。ウザいのなんて、お互いさまなのに。ほんと、ムカつく。

《八月七日》

夏期講習からの帰り道。今日に限って自転車で塾に来ていた優也が、寄り道しようって言ってきた。
自転車で優也が連れてってくれたのは、学校の近くの高台にある公園。
今日は隣町の花火大会だったみたいで、優也は部活の友達から高いところに行けばうちの町からも見られるかもって情報を仕入れてきたらしい。
隣町の花火が見られるなんてあんまり信じられなかったけど、優也が絶対行くって言うし。仕方ないからついていった。
優也と交代で必死に自転車漕いで、坂道を登って。高台の公園まで着いたら、ドンドンッて花火の音が聞こえてきた。
テンション上がって、優也と一緒に見晴台まで走ったら、すごーく遠くに豆粒みたいな花火が見えた。
せっかく頑張って行ったのに、期待はずれでガッカリ。
でも、ひさしぶりに優也といっぱいしゃべって笑ったかも。なんか楽しかった。
最近の優也は反抗期なのか、あたしにはちょっと冷たいから。嫌われてないみたいで良かった!

《十二月二十五日》

受験生は、イヴもクリスマスも普通に塾。
冬季講習帰りに優也と一緒に家に帰りながら、彼女と予定ないの? って聞いたら、そんなんいねーけどって鼻で笑われた。
山口さんは相変わらず自習室で優也の隣に座ってるけど、優也いわく、ふつーに友達らしい。ちょっとホッとした。
あたしは青木くんと別れてから好きなひととかいないのに、弟の優也に彼女がいるとかズルいもん。


《三月十二日》

中学の卒業式。
なんか、もう中学校に通うことがないなんて変な感じ。
クラスの女子の半分くらいは大泣きしてたけど、あたしはあんまり悲しくなかった。
クラスメートと会えなくなっちゃうのは淋しいけど、親友のりっちゃんはあたしと同じ高校に受かったし、優也も同じ高校に行く予定。
優也は本当はもうちょっとレベルの高い高校だって行けたはずなのに。祥と一緒のほうがなにかと便利だ、とか言って、結局あたしと同じ高校を受けていた。
よくわかんない理由だって思ったけど、あたしも優也と同じ高校に行けるのはちょっと嬉しい。思ってたよりブラコンだったのかも。

《四月六日》

ついに今日は高校の入学式。
新しい学校、クラスにドキドキした。制服も、セーラー服からブレザーに変わってなんか新鮮。
優也も、ブレザーを着ると中学生のときとちょっと雰囲気が違う。ブレザー姿の優也を見たりっちゃんが、優也くん、高校でモテそうって言っていた。それはないでしょ。無愛想だし、モテるタイプじゃないし。優也が女の子とデートしてるとこなんて想像できない……。ていうか、したくない。
りっちゃんとはクラスが離れちゃったけど、部活は同じところに入る約束をしてる。
優也は中学に引き続き、サッカー部に入るらしい。


《八月八日》

今日はお父さんとお母さんの結婚記念日だったから、ふたりのために夜ごはんを作った。
サッカー部の優也は、夏休みもほぼ毎日練習で忙しそう。
でも今日は、お父さんとお母さんのために早めに帰ってきて料理を手伝ってくれた。と言っても、あたしも優也もたいしたものは作れないから、ただのカレーなんだけど。お父さんもお母さんも喜んでくれた。
キッチンでひさしぶりに優也と並んでビックリしたのは、優也の背がいつのまにかすごい伸びてたってこと。ちょっと前まであたしとそんなに変わらなかったはずなのに……! 男の子って、急にこんなデカくなるんだ……。
包丁や野菜を持つ手も大きくて、昔の優也じゃないみたい。