結婚前夜のラブレター


《四月六日》

ついに今日は高校の入学式。
新しい学校、クラスにドキドキした。制服も、セーラー服からブレザーに変わってなんか新鮮。
優也も、ブレザーを着ると中学生のときとちょっと雰囲気が違う。ブレザー姿の優也を見たりっちゃんが、優也くん、高校でモテそうって言っていた。それはないでしょ。無愛想だし、モテるタイプじゃないし。優也が女の子とデートしてるとこなんて想像できない……。ていうか、したくない。
りっちゃんとはクラスが離れちゃったけど、部活は同じところに入る約束をしてる。
優也は中学に引き続き、サッカー部に入るらしい。


《八月八日》

今日はお父さんとお母さんの結婚記念日だったから、ふたりのために夜ごはんを作った。
サッカー部の優也は、夏休みもほぼ毎日練習で忙しそう。
でも今日は、お父さんとお母さんのために早めに帰ってきて料理を手伝ってくれた。と言っても、あたしも優也もたいしたものは作れないから、ただのカレーなんだけど。お父さんもお母さんも喜んでくれた。
キッチンでひさしぶりに優也と並んでビックリしたのは、優也の背がいつのまにかすごい伸びてたってこと。ちょっと前まであたしとそんなに変わらなかったはずなのに……! 男の子って、急にこんなデカくなるんだ……。
包丁や野菜を持つ手も大きくて、昔の優也じゃないみたい。

《二月十四日》

今日はうちに大量のチョコレートがある。バレンタインデーで、優也がたくさん持って帰ってきたからだ。
クラスメートや部活の子が大量生産して配った感じのものが多かったけど、何個か本命っぽいのもあった。
置きっぱなしにしてるからお母さんたちが食後につまんでた。本命っぽいやつくらい、ちゃんと食べてあげたらいいのに。
あたしもいちおうあげたけど、あんなにもらってくるならあげなきゃよかったって思う。
でも、あたしがチョコをあげたらちょっと嬉しそうにしてたとこは可愛かったかな。
優也は高校生になってから急にモテるようになった。中学の頃よりずっと背が伸びたし、黙ってたらクールでかっこよく見えるし。勉強も運動も結構できる。
みんなあたし達が姉弟って知ってるから、たまに知らない女子にまで優也との仲を取り持ってとか頼まれてめんどくさい。
優也がモテてると、なんか笑えるしムカつく。
家ではお菓子食べながらゲームして、だらだらしてるし、脱いだ靴下もそこらへんにほったらかしなのに。みんな、優也の本性を知らないんだ……!
本命チョコの誰かの告白、優也はオッケーしたのかな……。

《七月八日》

期末テストが終わった。
帰りに、同じクラスの加藤くんにライン教えてって声をかけられて、夜ごはんのあとにテレビを見てたら、花火大会に行こうってラインで誘われた。
びっくりしてちょっと挙動不審になってたら、横にいた優也にラインを見られた。覗き見するなんて、最低。
彼氏できたの? って聞いてくるから、ふつーに花火に誘われただけって言ったら、優也の顔が怒ってた。あたしが誰と花火行こうと優也には関係ないのに。
ムカつくから、優也の目の前で花火に行くよって加藤くんに返事した。そうしたら、ひさしぶりに怖い目で睨まれた。
どうしてあたしが睨まれなきゃいけないのかわからない。
だって、あたしは知ってる。優也も、クラスの女の子たちとグループで花火大会に行く約束してるって。
優也はお風呂から出てきても、なんだか機嫌が悪かった。意味わかんない。

《八月八日》

加藤くんと花火大会に行った。花火はすごく綺麗だった。でもそれより、もっとずっと大変で困ったことが起きた。
花火大会の帰り道に優也に会って、なんかいろいろあって、ケンカになって。ケンカしてるはずなのに、優也が急にあたしが好きだと言ってきた。家族の好きじゃなくて、恋愛感情なんだって。
ふざけてるんだと思ったけど、優也が抱きしめてきたからドキドキした。死ぬかと思った。
本気なのか冗談なのか全然わかんない。
あたしたち家族じゃんって笑ったら、優也は泣きそうな顔してた。
今日は結婚記念日だから、外にふたりでごはんを食べに行ったお父さんとお母さんはにこにこしてた。でも、あたしは全然笑えない。優也も笑っていなかった。
八月八日は末広がりの日で、幸せを引き寄せるのに。
あたしはどうしたらいいかわからない。
優也に家族だって言ったのは違ってたのかな。
今日は優也とも家族になれた日なのに。間近で見れた花火はすごく綺麗だったのに。
優也が泣きそうだから、あたしも泣きそうだ。

《九月二十七日》

最近、気付いたことがある。
学校にいるときのあたしは、優也のことばっかり探してる。今は席が窓側だから、体育の授業をしてる優也がよく見える。優也のことを見てると、嬉しくてほわほわする。
花火大会の日に好きだって言われたけど、あれから優也は家でも学校でもいつもどおりだ。
学校ではクラスが違うし遠くから見ているだけだけど、家にいるときに優也が近くに来るとドキドキする。
前はそんなことなかったのに。この頃おかしい。
そういえば夏休み中に告白を断ってから、加藤くんはあたしにラインしてこなくなった。今日は別の子と話してたから、あたしのことはもうどうでもいいのかも。

《十月六日》

もうすぐ修学旅行だから、学年内で付き合いだす子が多くなった。
ずーっと先輩のことが好きだって言ってたりっちゃんも、隣のクラスの子と付き合いだした。
今日、優也のクラスの前を通ったら、可愛い女子とふたりで楽しそうに話してた。優也も、修学旅行前で彼女が欲しいのかも。
あたしに好きって言ったのは嘘だったのかと思ってムカついた。
名前は出さずに優也に感じてる気持ちをりっちゃんに話した。
気付いたら目で追っかけちゃうこととか、そばにいたらドキドキしちゃうこととか。あたしのこと好きって言っといて、他の子と仲良くされたらイライラすることとか。
りっちゃんは、あたしがその人のことを好きなんだって言った。
たぶんりっちゃんは、その人を加藤くんだと思ってるけど、本当は優也だ。
あたし、優也が好きなのかな。優也は、あたしの弟なのに……?

《十月二十二日》

修学旅行が終わった。京都はすごく楽しかったけど、クラスが違う優也にはほとんど会わなかった。
一回だけ清水寺ですれ違った優也は、この前一緒にいた子と楽しそうに歩いてた。
りっちゃんは、自由時間はずっと彼氏と回ってた。
友達と回るのは楽しかったけど、一枚くらい優也と写真が撮りたかった。優也は、一緒にいた子と一緒に写真を撮ったのかな。
夜に部屋でみんなの恋バナを聞きながら、みんなの好きな人への気持ちは、あたしの優也への気持ちと似てるって思った。
あたしはたぶん優也のことが好きなんだ。家族でも弟でもなくて、恋愛感情で。
先輩への恋を諦めて、別の彼氏ができたりっちゃんが言ってた。
いちばん好きな人とは結ばれないものなんだ、って。
りっちゃんの言い方はかっこよかったけど。それって実はすごく悲しい。

《十二月二十四日》

今年のクリスマスは、優也と一緒に家にいた。
受験生だからどこにも行かないって優也が言うから、あたしもクラスのクリスマスパーティーを断った。
どうしてもプレゼントをあげたくなって、手袋を買った。今使ってるのはぼろぼろだから、受験のときに寒くないように。
毎年何もあげてないのに急にあげたら不自然だから、十一月末だった優也の誕生日プレゼントも兼ねてることにして誤魔化した。優也の誕生日に、なにもあげられなかったから。
嬉しそうにしてたから、たぶん喜んでくれたんだと思う。
来年のクリスマスも、優也と一緒にいられたらいいな。家族のままでいいから。