告白されたばかりだというのに、一瞬も揺らがず眞田のことを考えていた。


この子には悪いけど、距離を縮めても告白に応えられる未来が見えない。

薄情な男なんてさっさと忘れて、次に行ってほしいとすら思う。でも、理性でどうこうできるものじゃないとも知っているから、どうしようもない。


俺よりよっぽど勇気がある、かっこいい子。告白されて、その姿勢を見習いたいと思うのは、皮肉になるだろうか。


「またね」


教室の前で別れて、ひらりと手を振る。とりあえず何も考えないで、ただ友達のひとりとして話していこう。女友達が多い方ではないから、若干距離感に戸惑うところではあるけど。


「おい井口~モテるなこの~」
「付き合ったの?」
「そういうんじゃない」
「そういうのって何よ」
「付き合ってない」


ええ、じゃあなんの用だよとダル絡みされるのを流しつつ、菓子をつまみながら雑談している眞田を視界に入れる。


わかってた。なんの反応もないことはわかっていたけど、少しは気にしろよと理不尽に思うから、面倒だ。


「はいはい、もう授業はじまるから解散」
「井口が俺らにつめたい」
「いつものことだろ」


教室のど真ん中の席で、教師と目が合わないようにしながら黒板を眺める。

左手で頬杖をつくとちょうど視線の先に眞田がいるから、この席も悪くないと思えてしまう単純な頭。


真剣にノートをとっていて、書くことにいっぱいいっぱいなことを知っている。今日の図書室は、この授業の復習になりそう。


眞田に教えられるように、少しだけ真面目に授業を受けるようになったことは、絶対に言わない。


わからないところを聞こうと考えるときは、俺のことが頭にあるってことだろ、なんて。健気な自分に泣けてくる。

そのくせ、何も行動に移していないんだから、救えない。


「先週の復習分、小テストするから教科書ノートしまって」


教師の声かけと同時に、一斉に教室内がざわつく。眞田、終わったわと小さくため息をつきながら、机の中にものをしまう。

先週は違う課題をしてたから、おそらく今日の小テスト範囲は手、つけてない。今日の復習に泣きごとが追加されることが確定した。


「はいそこまで、前後左右適当に答案用紙交換して採点な」
「井口交換!」
「ありがと」


読み上げられる正解に合わせて手を動かしながら、まあまあ解けてると脳内で自分の回答と照らし合わせる。

高2は中だるみの時期だから気を引き締めろと言われ続けて半年。なんとか成績は下がらずに済んでいる。

後期もこのままキープか上がるかを目指す予定で、勉強のモチベに恋愛感情が絡むなんて、過去の自分は思いもしなかっただろう。単純な自分に笑える。



これなら眞田に教えれそうだと安心ながら、早く放課後になればいいと時計を眺めた。