「まあ、休校だから寝かせてやれば。その方が静かでいいよ。余ったら昼に回そう」

 午前パートのおばちゃんはいいひとだ。のんびりとした口調に、カリカリしていた神経を静めてもらう。

 五時に起きて人数分の食事を準備したこっちの苦労なんて、寮生は屁とも思っていない。感謝の言葉をもらったこともない。

「あ、そうだ。ちょっと行ってきます」

 そういえば、コスプレさんを起こすのを忘れていた。エプロンを外し、適当に置いた。

「はいよ。こっちはのんびりやっているから」

 おばちゃんは椅子に座り、パンをかじった。


 コスプレさんを寝かせた部屋の鍵は、しっかり閉まっていた。ということは、彼は抜け出していないということだ。

 まあ、あの台風の中、抜け出していく人はいないかもだけど……。いなくなってくれていれば、楽だったのにな。

 緊張しつつドアを開け、隙間から中を見る。コスプレさんはまだ横たわっていた。

 まさか、死んでないよね? 部屋に入り、ベッド脇から声をかけた。

「もしもし。朝ですよ。大丈夫ですか」

 するとコスプレさんは、ゆっくりとまぶたを開けた。よかった。生きてた。

 彼は数回瞬きをし、突然こちらをぎろりとにらんだ。

「……てめえ、誰だ。ここはどこだ」

 言いながら上体を起こす彼は、ほとんどその筋の人だった。